「温室」

ハロルド・ピンターの作品を見るの初めてです。不条理演劇の大家として名の知られた方というのは観劇後に知りました。物語のネタバレというのではないのだけど、いちおう展開に触れているので畳んだ方がいいかな。
どこかの「施設」でありなんらかの「治療」のようなものをおこなっていて「患者」はすべて番号で呼ばれる、という枠組みと、登場人物たちの関係性以外はなにも明確にはつかめないように用意周到に配置された舞台、という印象でした。ここまで設定を限定的にしているのに何も掴ませないというのは逆に難しいことのような気もしたり。

最後の展開はまったく予想しなかったものだったのですが、高橋一生くん演じるギブズがルートへの報告の中で最初に描写する死んだはずの4257号の患者が、「本省」の役人の姿そのままだったことを思うと、そもそも4257号が死んだという彼の報告から土台が崩れていくように感じられたのが面白かったです。

物語、またはその役の生理に必ずしも沿わない台詞の応酬が続くところがありますが、こういうシーンになると段田さんのうまさというか底力が際立つなーと思いながら見ていました。いや、ほんとうまい座組じゃないとこういう芝居はものすごく苦痛になりかねないですよね。

その役者と同じぐらい雄弁だったのがセットで、新国立小劇場のセンターに舞台を据え、手前と奥に客席を設えるというところもさることながら、その舞台が約2時間の間ほぼずっと回転しているというのがさらに不安感を煽ります。しかも、登場人物の間に不穏な空気が流れると軋みとともにスピードをあげていくという仕組み。両サイドにミラーが貼られていたということもあり、正面を決めることが徹底的に出来ない構造になっていて、やっている役者にはもんのすごいストレスだったのではないかと推察します。

高橋一生くんは慇懃無礼な中に酷薄さを滲ませた役柄で、それはそれは…それはそれはもう素敵でした(目がハート)。笑顔のまんま企んでる感満載で好みすぎる。かと思えばラッシュに対しては激情というかライバル心をむき出しにかかっていったりするところもよかった。でもって、そのラッシュを演じていたのが山中崇さん*1だったんですが、いやーすばらしい。もう絶賛。身体性も高いしちょっとエキセントリックにも見えるような役柄を実に魅力的に立ち上げておられました。略歴を拝見すると舞台でも観させて頂いているようなのに、こんなに魅力的な役者さんだったとは!!と新発見の心持ちですよ。またぜひ舞台で拝見したい方だなあと。

ところどころでナイフや電極といった不安を一気にマックスにさせる小道具が顔を出すということもあって(もちろん全体に流れる空気そのものも)、相当肩に力を入れて見ていたということに終演後気がつきました(笑)

*1:扉座の方ではなく。