2年半のスパンで再演、かつ芸劇地下のシアターイーストとウエストで「て」「夫婦」同時上演。同時上演なのでこちらの「お父さん」は岩井さん本人が演じておられます。お母さん役は初演に引き続き山内圭哉さん。
「て」が家族というかいぶつ(よくもわるくも)を描く作品だとしたら、「夫婦」は文字通り夫婦というかいぶつ(よくもわるくも)を描いた作品だと思うんですが、初演を見たときは描かれる「父親」の多面体ぶりにくらくらしてしまって、印象もそちらにかなりひっぱられた記憶があります。あの「釣った魚にエサやるバカいるか?」は、ほんとうに今舞台の上にいるおまえをなぐりたい!と思うほどに気持ちを逆なでされたけれど、今回はあの「父」に対する見方にかなり変化があった。それが岩井さんがやっているからなのか、再演だからなのかはわからない。初演の時は、どこかカリカチュアライズされたキャラクターとして観ていたところがあったように思うんだけど、今回は「本当にいる、そういうひと」として観ているところがありました。「ほんとうにおれはそんなに殴ったか」って息子に聞く場面も、以前は腹立ちのほうが大きかったのに、今回はなんというか…哀れさがあった。あと菅原さん演じる「岩井」さんが父の「食らいついていけよ」を瞬間、思い出す場面とか。
同じ屋根の下で暮らし、それぞれ別々に自分の食事の支度をし、別々に食べる、夫婦。病気になり、仕事をやめたあと、ふたりで食事に出かけていく夫婦。ついさっき見た舞台で、その孤独の絶望の果てにしね、と叩きつけた妻が、死にゆく夫の手を取って涙する、ざまあみろという思いと、その涙は、同じ人間の中にまったく矛盾なく両立している。家族を描いた「て」よりも、私にはまったく想像のつかない世界で、あの食事のシーンも、初演の時に「いいシーンだな」と思ったけれど、それよりも底知れなさを強く感じたシーンになったのが、自分でも驚きでした。
最後の演出は今回の方がすきだなー。千秋楽ゆえなのか、笑いどころがばらつくという感じがなく、よかったような残念なような(ここで笑うか?というところで笑いがくるのは削がれる部分もあるけど、この芝居に関してはひとがなにをこの場面に観ているのか、がわかって興味深い部分も大きいと思う)。
山内さん岩井さんがいいのはもちろんだけど、ハイバイにおける菅原さんの「いい仕事」ぶりは今作に限らず図抜けてるな!と改めて思いました。菅原さんの役をべつのひとがやると、また全然ちがった手触りの作品になりそうな気さえします。連続上演だからこそ「岩井家サーガ」を俯瞰で見るような面白さがあり、以前の観劇時とは違った感覚で楽しめてよかったです。それにしてもこれを同時に演出する(片方には出演もする)岩井さんて…すごすぎるな!