「ドクター・ホフマンのサナトリウム~カフカ第4の長編~」

カフカ大好きケラさんの新作。昔「カフカズ・ディック」って作品おやりになったこともありましたね。「世田谷カフカ」なんてのもありましたね。兵庫公演のチケットが激戦で苦労しました。

存在しない「カフカ第4の長編」が発見された、しかもそれはカフカがかつて知り合った少女、その経緯がWikipediaにまで書かれるほど有名なエピソードであるその係累から見つかった、という世界と、その「第4の長編」で描かれている物語世界、さらにカフカが晩年を過ごした1923年のドイツと舞台はひっきりなしに入れ替わります。とはいえ、ものすごくよくできたパズルのように精緻に組み立てられ、完全に交通整理されているので、自分が今何を見ているのか、というのを見失うことなく3時間半の観劇を堪能できるのはすごい。たぶんすごすぎて「普通こうだよね」とか思ってしまいそうだけど、3つの世界でしかもそれが少しづつズレていくっていう展開でこうも飲み込みやすく作れるのって、もはや匠の技としか言いようない。

とはいえ長尺は長尺で、1幕はさすがに「長いな」という感じもありましたな。逆に2幕は「もう終わり!?」と思ったので、1幕での種植えがうまくいっているからこその物語の面白さ、とも言える。

終盤に「間違った列車に乗った」という台詞があること、途中で訪れる教会にダビデの星が掲げられていたことからも、この舞台全体に極右政党の「最終的解決」を匂わせる不穏さがあったのが印象的でした。物語の構成で好きだったのは1923年に迷い込んだふたりがカフカの描く作品の中にその徴を残してしまうっていう展開。こういうの大好き。

あと舞台装置がすっばらしかったね!!!いやあれどうなってたんでしょう。エッシャーのだまし絵みたいだった。そんなことあり得ないのに人が逆さまに歩いているような気さえした。ケラさんと言えば、なオープニングのカッコよさはもちろん折り紙つきだし、やっぱりかなり高次元のスタッフワークの結晶なんだなーと改めて思いましたね。

キャストもほんとうに手堅い。プロフェッショナルしかいない。全員自分の持ち球をガンガン決めにきてるのに俺が俺がになってない。気持ちいいですね。そういうとこも「長いけどずっと観ていられる」要因の一つなんだろうな~と思います。麻実れいさまのサディスティック女王様なんてどんな御馳走かと思いました。いっけいさんと大倉くんのコンビもよかったな~。KAATプロデュースだからなのか、キャスト表の配布がなくて、そこはちと残念でした。もうね、役名があやしくなる一方なんです、この年になると!ぺら紙でいいのでキャスト表ほしい!よろしくおねがいします!