「MIDSUMMER CAROL〜ガマ王子vsザリガニ魔人」

  • シアタードラマシティ  18列1番
  • 作 後藤ひろひと  演出 G2

大王は、最初「ガマ王子vsザリガニ魔人」というタイトルだけにしたかったんじゃないかなあ。これじゃなんだかわからないから、ってことでMIDSUMMER CAROLっていうのをタイトルにしてガマ王子の方を副題にしたような気がしないでもない。いいタイトルなのになあ、「ガマ王子vsザリガニ魔人」。この芝居を観た人だけが「いいタイトルだなあ」と思えるというのが、素敵だと思うんだけれども。

ディケンズの「クリスマス・キャロル」さながらな骨格に大王テイストな味付け満載。後藤さんの持つ独特の毒味は薄目とはいえ、こういうテイストは大好物であります。1幕のラストと2幕のラストでまんまと泣いた。1幕のラストはとにかくな、なんて卑怯な!という飛び道具が10分間ぐらいに立て続けに襲ってきたので呆気なくノックダウンな私。「この本でなきゃダメなんだよ」「お誕生日おめでとう、毎日読んでね」「パコ、きょうおたんじょうびなんだよ!」「あなた言ってあげましたか、触ったんじゃない、殴ったんだって。」「涙の止め方を教えてくれ」・・・・立ってられるわけないだろう。セコンド!タオル!ってなもんであった。

二幕劇中劇のドタバタはちょっと騒々しいがわたしはこういう盛り上がりが大好きなのである。木場さん演じるガマ王子が歌舞伎風に見得をきってくれるところ、ヤゴが場違いに飛び出してくるところ、そして伊藤くん演じる室町青年のザリガニ魔人登場、あ瀬戸カトちゃんの魔女もだ、んもー拍手拍手で楽しんだ。滝田青年は途中から姿を消したのでああ、こうやって出てくるなと思いつつ出てきてやっぱり感動しているオメデタイ私。しかし一番好きなのは幕切れなのです。この本を読む方法がたったひとつだけあるよ、と言われて父親に電話をかける青年。その部屋に浮かび上がる数々のカエルのぬいぐるみ・・・それが「これがなくても、あの出来事を忘れたりしません」という台詞とシンクロしてみえて胸に迫った。

記憶というのは人をつくるもので、今ここにいる私も多くの記憶から成り立っていると言える。パコには昨日がなく、明日がない。毎日が誕生日だ。大貫は彼女の心の中に存在したいと言ったが、それは彼女に「昨日」をあげることでもあった。きみには昨日があって、今日があって、そして続く明日があるんだと。「お前が俺を知っているというだけで腹が立つ」を口癖にしていた大貫は、永遠に自分を知ることのない少女と向かい合って初めて、「誰かを知る」ことの重さに気がついたのだろう。

大貫とパコ、光岡と室町というのは本来なら物語の両輪という気がしますが、大貫の再生の鮮やかさに較べて若い二人の方のインパクトが薄かったのは演じ手の問題か脚本のバランスなのか。ネタ的にはかなりぐっとくる部分がこの二人にもあるんですけど、ちょっと消化不良な感じ。「弱くなった」と自称する大王ですけれどもいやいやどうして、普通の作家なら最後はああはしないでしょうよ(笑)まあでもそれでより「泣かせ」テイストが強くなってしまったのを「弱くなった」と仰っているのかもしれないですけれども。っていうか後藤さんが私とそう年が変わらないというのがなにげにショックでした。絶対もっと年上だと・・・(汗)

キャストですが、木場さんと山崎さんに全部!でも個人的にはいいぐらいの感じです。いやもう言うことなし。さすがです。全編木場さんの独壇場と言ってもいいがそれを支える山崎さんも負けず劣らず素晴らしい。一幕最後の二人のシーンは飛びきりの名シーンであったと思う。山内さんはもう、二幕はずるいよ(笑)まったくすばらしいかっさらいぶりであった。片桐さん、イヌコさん、瀬戸カトちゃん、小松さんも実に手堅く。初舞台組の伊藤英明さんは役のおいしさもありますが、ダメな男っぷりもなかなかどうしてはまっていて、2幕の劇中劇での登場はまさに待ってました!という感じ。舞台に華を添えてくれる存在でもあったしね。もうおひとりの初舞台組長谷川京子さんは、まあ甘めに見てもプロの中に一人だけちょっと気合いの入ったアマチュアがいるという印象が最後まで消えず。というより、光岡の核となるシーンの多い後半になればなるほどそれが目立ってしまった。いやまあ初舞台だからねえ。ああ、自分は下手だなあ、ダメだなあというのを自覚してこれから頑張って欲しい。最初は誰でも下手なんだしね。

チケットを取るときから「なんでこんなタイトルなの?」と思い芝居を観て、最後に作家が「もっとマシなタイトルにすれば良かった」というのを笑いながら聞いて、でもいや、なかなかにいいタイトルですよ・・・と客席でほくそ笑む、というのが美しい構図、のような、気がする。どうなんでしょうか、大王様(笑)