本好きさんに50冊の質問・Q21〜Q25

  • Q21.教科書・授業・テストなどで知って読んだ、おもしろかった本を2冊教えてください。

李陵・山月記 (新潮文庫)

李陵・山月記 (新潮文庫)

教科書で知った面白い小説、でこの「山月記」を挙げる人ってすごく多いんじゃないでしょうか。それほどまでにインパクトがあり、かつ時を経てなお色あせない普遍の輝きがある小説ですよね。中島敦は文章のリズムという点において圧倒的なものがあって、思わず音読したくなる。「人生は何事をも成さぬにはあまりに長いが、何事かを成すにはあまりに短いなどと、口先ばかりの警句を弄しながら、事実は、己の才能を暴露するのではないかとの卑怯な危惧と、刻苦を厭う怠惰とが、おれのすべてだったのだ。」ザ・名台詞。

高校生のころだったと思うんですけど、あるテストで出題された新田次郎の小説が、もちろんテストなんでほんの一部なんですが、面白くて面白くて、問題文読み終わった後「続きは!?」みたいな感じになってテストどころじゃなかったっていう。でもその時の設問満点だった。完全に入り込んでいましたからね。でも、なんていう小説かわかんないんですよ。新田次郎だったのは確かなの、「八甲田山のひとだ」って思った覚えがあるから。山岳小説じゃなかったんですよね。リレーが題材だった気がする。どなたか心当たりのある方がいましたら情報求む(笑)

  • Q22.好きな作家さんの本の中から、特におもしろかった本を2冊教えてください。

王の闇

王の闇

それこそ深夜特急でもいいし象が空をでもいいし一瞬の夏でもいいし人の砂漠でもいいわけですが、この著者の中では地味な作品になるであろうこの「王の闇」が大好きなんですよね。ボクサーをとりあげた作品が主なのだけど、この中に収録されている瀬古利彦さんを取材した「普通の一日」*1は忘れがたい。沢木さんだからこそ書けたノンフィクションなのではないかと思う。

短歌という爆弾―今すぐ歌人になりたいあなたのために

短歌という爆弾―今すぐ歌人になりたいあなたのために

数多くの著書をものしている穂村さんですが、やっぱりかれの著作の中でひとつ選べと言われたらこれを選んでしまうなあと。終章の「世界を覆す呪文を求めて」を、わたしがもし青春時代に読んでいたら、わたしは「将来歌人になる」とでも言い出しかねなかったろうと思う。それほどまでに、一種異様な引力をもった文章です。そこにいたるまでの「短歌」というものをときほぐしばらばらにしそれをながめてまた組み立てる、というような作業も大変面白い。飽きない本です。

  • Q23.続きを読みたい! と思った本を2冊教えてください。(シリーズだろうと無かろうと)

死者を起こせ (創元推理文庫)

死者を起こせ (創元推理文庫)

実際これシリーズもので、シリーズ第2作の「論理は右手に」がもう刊行されているんです。いるんですが、もっと読みてえええ!あるんだろ?あるところにはあるんだろ?的な詰めより方もしたくなろうというもんです。お願いだから早く翻訳してええええ(懇願)

七都市物語 (ハヤカワ文庫JA)

七都市物語 (ハヤカワ文庫JA)

この設定でこれだけ書いておいて1巻で終わりかぁぁぁぁい!と読んだ当時吠えました。後年他の作家のアンソロで続編風のものが出ましたけど続編と続編風が違うことくせ毛とくせ毛風が違うが如し。まあだからってこの後どう展開させたいんじゃい、と言われたら沈黙するしかないんですけど、でもあの頃田中先生投げっぱなし多かったんだもんよ!正直今でもまだ続きが読みたいと思ってるわけではないんですけど、読んだ当時続編を切望していたという点では一二を争います、自分の中で。

  • Q24.この本とこの本は合わせて読むのがオススメ、という本を1組教えてください。

どぶどろ (扶桑社文庫―昭和ミステリ秘宝)

どぶどろ (扶桑社文庫―昭和ミステリ秘宝)

ぼんくら(上) (講談社文庫)

ぼんくら(上) (講談社文庫)

併せて、ということなのでまとめて。というより、「ぼんくら」は宮部みゆきさん流の「どぶどろ」なんですよね。それはご自身がはっきりそう仰っているし、どぶどろの解説でもそう書かれておられます。私は最初に「ぼんくら」を大変面白く読んで、宮部みゆきさんの時代物の中ではこれが一番好きだなーと思っていたのですが、その後ふとしたきっかけで「どぶどろ」の方を読んだという次第。しかし同じ出発点ではあっても、二つの作品の到達点は驚くほど違います。市井のひとびとを描いているという点は変わりませんが、俯瞰図と鳥瞰図ぐらい、違う手触りを読後に感じることができるはず。ぜひあわせてお楽しみください。一粒で二度美味しい、ではなく二粒で4倍美味しいこと請け合いです。

  • Q25.これまでの質問では言い切れなかった本を、2冊教えてください。

あしながおじさん (福音館古典童話シリーズ)

あしながおじさん (福音館古典童話シリーズ)

福音館古典童話シリーズ、リンクはあしなおじさんですが、シリーズ全巻というテイでお願いします。節子!それ本やない!それシリーズや!(もういい)うん、卑怯でごめん。でもこのシリーズそのものが私に与えた影響ははかりしれない!私がイメージするうつくしい「本」というものは全部ここが出発点ではないのかとおもう。あの函の装丁も、本の装丁も、イラストも、フォントも、すべてがわたしの原点であるといって差し支えないのであって、本当にわたしは福音館に育てられた。そう思います。後年刊行されたものには読んでいないものもあるけど、そうかと思えば表紙がはがれるほど読み返した本もあり(西遊記だ)、とにもかくにも思い出深すぎる。まさにこれまでの質問で「言い切れなかった」本です。

てぶくろ (世界傑作絵本シリーズ)

てぶくろ (世界傑作絵本シリーズ)

絵本ですね。最初に読んだのは何歳のころだったのか、もちろん覚えていない。覚えていないけれど、幼い私がたどたどしい口調でこの本を朗読したテープが実家にまだ残っている。本の表紙見返しにはこれまたたどたどしい文字で「てぶくろ はじまり」と書いてあり、裏表紙見返しには「てぶくろ おわり」と書いてある。ともかく、私が最初に熱中した「物語」であって、結局のところ、私はこういう「物語」ばかりを今でも追いかけているのではないかと思うのです。まさに私の嗜好の原点。私はクラシック音楽をまったく聴きませんが、唯一ラヴェルの「ボレロ」だけが例外で、この曲だけは何度聴いても飽きない、と思っているのですけど、この「てぶくろ」は音楽でいうならボレロそのもの。繰り返される主題(テーマ)、同じ所を回っているようでありながら次第に高揚する空気、そして一瞬の終焉。読んでいただければおわかりのようにこれは「不思議な話」です。あり得ない話といってもいい。けれど、その不思議さ、ありえなさを説明することは一切ない。てぶくろを落とし、拾う。ただそれだけです。それだけのことが、こんなに豊かな物語になる。名作として読み継がれるのもむべなるかな。私の「読書事始」はたぶん、この本なのではないかと思うのです。

*1:「王の闇」は文庫化されているんですけど、この「普通の一日」が収録されているかどうか不明。リンクは単行本の方です。