「人生スイッチ」


アルゼンチン映画。6本の短編のオムニバス。それぞれの話はリンクせず、ただ同じテーマで描かれる。つまるところ「復讐するは我にあり。」

人間誰にでも「頭にカッと血が上る」ってことはあると思いますし、その血の上った頭で「〜〜〜〜してやりたい!」(〜〜〜にはそれぞれ好きな言葉を当てはめてください)と思うことはありますが、しかし実際、たとえば「殴ってやりたい!」と思ったとしてもそれを実行に移すわけじゃない、爆発しろ!と思っても本当に爆弾をしかけるわけじゃない。だって、なぜなら、そのあとは?その怒りを解消して,そのあとは?そして沈黙。心の中で復讐を果たし、それで終わる。ふつうは。

しかしこの映画には、その血の上った頭で考えたことを、そのまま行動に移す人しか出てこない。いやーすごい。痛快!と怖い!という二つの感情に振り回されっぱなしでした。というか、世の中には「うまく怒れる人」と「怒れない人」ってのがいるんじゃないか。うまくっていうのは、自分の怒りの感情をちゃんと表出できる人と、その回路がちゃんと働いていない人と。それを考えると、アルゼンチンのひとたちは怒る回路がちゃんと働いている人が多いのだろうか?そのタフネスさがほんとすごいし、私はとくに3話目の「エンスト」がマジでおそろしく、何がってあの人らの怒りが!こわい!目には目と歯をで打ち合いまくるふたり、なんでそんなに怒りが持続するんだ、その回路の強さはなんなんだ、ほんともう許して下さい…って感じになった。

一番観客の共感を得られそうなのはあの爆弾犯のエピソードですかね、あれは確かに痛快ではあった。あと最初のアバンタイトルになっていたエピソードも好きです。バカ息子のエピソードは、ふっかける側と値切る側の立場が逆転してからが面白かった。ラストの結婚式のエピソードもわりと好き、個人的にあれは「まさかの展開」ってより、こうなるよな…というふうに見えたなあ。あの花婿のほうのお母さんが、息子が泣いている間息子のシャツがはだけた胸をなでさすっていて、母親支配的なものもあったりするのかしらんと思ったり。

最初のタイトルとキャストクレジットが出る場面が、それぞれ動物の写真になっていて(3人クレジットされるときは、動物も三頭というぐあい)、ヒトもまたケダモノだよねと言っているようで粋でした。