「1917 命をかけた伝令」

f:id:peat:20200301212136j:plain
サム・メンデス監督作品。今年のアカデミー賞で撮影賞ほかを受賞。撮影はあのロジャー・ディーキンスだよ!14回目のノミネートでようやくオスカー受賞叶ったのも記憶に新しいところだけど、今までごめんやでといわんばかりの連続受賞マジでおめでとうございます!

第一次世界大戦下のヨーロッパ、西部戦線におけるドイツとの攻防。ドイツ軍の撤退を知ったデヴォンシャー連隊は追撃をかけるべく進軍する。しかし、それは連隊をおびき寄せる罠だった。デヴォンシャー連隊の総攻撃を停止させるべく、2名の歩兵が伝令となる。

物語の構成としては非常にシンプルで、伝令を受け取った地点Aから、それを伝える地点Bへの移動、それだけです。この、移動を一つの大きなストーリーテリングとするというのは、実は映像だからこそできるというか、映像に圧倒的な強みがありますよね。ロードムービーというジャンルがあるのもその証左だし、演劇でもそういう「移動」を見せるものがないわけじゃないけど、色合いはかなり違ったものだし。

なぜそう思ったかっていうと、この作品は一つのカメラでワンカットとして撮った形で映像が編集されていることが話題になってるんですが、もちろん実際のワンカットではない(物理的に考えてこの規模をマジのワンカットワンシーンで撮るのは無理)。実は三谷幸喜さんはその昔「ショートカット」というWOWOWのドラマで、マジのワンカットワンシーンをやったことがあるんですよね。言うまでもなく演劇って「究極の長回し」だから、舞台演出家でもあるサム・メンデスがそういった「究極の長回し」に類したことを映画でやり、でもその物語のフォーマットはもっとも映像に強みのある「移動」を描いているっていうのが非常に面白いなと。

カメラは常に伝令となったふたりの兵士に寄り添い、彼らの見たもの「しか」描かれないので、没入感がすごいです。ドイツは撤退したとの情報があるとはいえ、それがどの程度正確なものかわからないままあの無人地帯を進んでいく。ひとも動物も皆息絶えており、腐り、その形をとどめない。その容赦のない描写がまずすごい。ドイツ軍の塹壕でのワイヤートラップ、ヒィ!って思わず声が出たわ。中盤、意識を失ったスコが見る夜の教会の光と影の鮮烈さ!あの橋をわたるシーン、銃撃戦、その中の母子(ではないけど)との場面、となんだか夢を見ているような酩酊感があって、ホントあの世界に完全に持ってかれちゃってましたね。

キャストの要所要所に綺羅星のごとく英国俳優陣を配しており、指令を託すコリン・ファース、現場指揮者のアンドリュー・スコット、途中でスコフィールドを助けるマーク・ストロング、指令を伝える先はベネディクト・カンバーバッチで、しかも最後にリチャード・マッデンまで出てくるという。英国俳優双六でもありましたな。

トムの運命も、まさかあんなことで…っていうあっけなさで、それがリアルで、ウィリアム・スコフィールドが(彼の名前、最後のシーンで名乗って初めてわかるよね。トム・ブレイクは最初に呼ばれるけど。トムは「スコ」としか呼ばないし)助からない、と静かに告げるのも含めてどうしようもなくやるせなかった。そういえば、この物語は最初と最後が同じ、私の大好きなループする構図ですね。木の下で居眠りをしていたスコフィールドが起こされるところから始まり、また彼が木の下で目を閉じるまで。ご覧になる時は、ぜひ大画面で没入感を味わっていただきたい作品です。