「二月大歌舞伎 昼の部」

二月の昼の部は十三世片岡仁左衛門追善興行として、当代仁左衛門さまが菅丞相をおつとめになる菅原伝授手習鑑の半通し。なんと!わたくし、加茂堤から筆法伝授、道明寺まで、すべて初見でござる!観たことなかったんかい!なかったんだね!

久しぶりに全く見たことない演目のしかも通し(半分だけど)、ちゃんと予習していこ…話についていけるかな…とドキドキしておりましたが、全然大丈夫だった。大丈夫どころか、すごく面白かった!特に道明寺!!

まず加茂堤では勘九郎さんが桜丸を。桜丸、公務の途中なのに若い二人を引き合わせちゃうわ、若い二人にあてられてさかるわ(言い方)、なるほどこういうキャラクターなのね本来は、という得心感すごい。車引だとどうしても線の細いタイプがおやりになることが多いからさ~。孝太郎さんの八重も素敵でした、こんなおかしみのある場面だとは知らなかったな。

筆法伝授がこれまたむたくた面白くて、菅丞相からの筆法伝授を受けるのはおれにちがいない、とおごる左中弁希世と、勘当されてお顔を見ることもかなわなくなった源蔵がじきじきのお呼び出しに期待と不安がないまぜになった面持ちでやってくるのと、この対比がずーっと効いているうえに、伝授がかなったけれど勘当ゆるさぬ、となったときの源蔵のあの嘆き!源蔵にとっては伝授が叶う、それはすなわち勘当も解けるのではという期待があったからこそだったのに…!っていう。戸浪が園生の前の着物の影から見送るところも切ないし、なによりこれ、この段を知って寺子屋を観るのと知らないで観るのとは全然違うのでは!?と思うくらい、源蔵と戸浪の物語が凝縮されてますよね。この流れで寺子屋見たかったわー!

そうそう、筆法伝授の途中の舞台転換面白かった。精進潔斎中の菅丞相のところに行く場面で、回り舞台のセットをそのまま歩いて続きの部屋に入るという。鳴子廻しというそうですね。スペクタクル!大劇場ならではの愉悦のある転換でした。

そして道明寺。近鉄南大阪線が身近なものとしては「土師の里」も「道明寺」も「はいはい駅名駅名」って感じなんですけど、いろいろとなるほどそういういわれがー!な部分も楽しかったですし、何よりドラマが濃厚!これめったにかからないの、そりゃ菅丞相をやれる役者がそうそういないとはいえ、も、もったいない…!という気がしてしまいます。いやだって道明寺がめったにかからないってことは覚寿チャンスもめったにないってことになるじゃないですか。覚寿、最高じゃないですか。娘の仇に気がついて、そこで騒がず、いやワシの手で、とかいって刀を受け取り、真の仇にぶっ刺すとかマジすごい。

奴宅内(勘九郎さん!)のおかしみある場面もありつつ、最後の苅屋姫と菅丞相の別れの場面の抑えに抑えた情の表現たるやですよ。仁左衛門さま、とにかく筆法伝授も含めて出てきたすべての場面で説得力が段違い。このひとのために梅王丸や源蔵やまわりのひとが動く、このひとのためにやらなければと思う、そのエナジーの根源にこのひとがいるのだ、というその存在感。ほんとね、拝みたくなります。マジのガチで拝みたくなります。

しかし繰り返しますけど、とにかくドラマとしてむたくた面白い。いつか昼夜通しやってほしい。丸一日この物語に喉まで浸かってみたいです!!!