「てにあまる」

松井周さん新作、柄本明さんの演出、藤原竜也くんが主演。ちょっと今までになかった顔合わせで興味を惹かれました。自宅から徒歩5分の劇場でかかるのをいいことに2度目の緊急事態宣言下、足を運んできました。

虐待の連鎖、と言葉にまとめてしまえば簡単ですが、父親からの暴力、母親からの拒絶により深く傷ついた子どもの今を切り取っているので、なかなかにしんどさのある筋立てではありました。しかし、救いのなさというよりも、主人公が終盤に父親に向かって言う、そんな言葉で俺を決めないでくれ、あんたはあんたで、おれはおれなんだから、という台詞にこの芝居のピークを持ってきていたことを思うと、その連鎖を断ち切る意思をどうにかして見せたかったのかなと思います。

主人公の幻聴が明らかになってからの展開は虚実入り乱れるところもあり(あのインターホン)、主人公がもう引き返せない河を渡ったのかそうでないのかっていう余白があるのも、個人的にはよかった。

藤原竜也くんをこういうミニマムな世界観の芝居で観るのなかなかレアな気もしつつ、柄本さんとの掛け合いの巧みさにうなり、なんといっても終盤の爆発力のすごさ、文字通り「場数が違う」という感じで圧巻だった。あれだけ自由奔放に本能的にやっているようでも絶対に台詞がながれない、ただ大きな声を出すというのとは全く次元の違う自在さ、主役の器じゃのう…と感嘆。

このご時勢ですから空席の多さは如何ともしがたいというところですし、もしかしたら藤原竜也くんはこんなに空席のある客席を前に芝居をすることが今までなかったかもしれないと思いますが、変な言い方だけどこの経験が少しでも彼自身の養分になっていってくれたらいい、そんなことを思いました。