「マリー・キュリー」

  • シアタードラマシティ 11列43番
  • 脚本 チョン・セウン 作曲 チェ・ジョンユン 演出 鈴木裕美

韓国で初演されたミュージカルで、鈴木裕美さんの演出により本邦初演。完全に口コミで観に行ったやつです。どんなオタクでも多かれ少なかれ口コミには弱いものですが、観劇オタクの場合は口コミがチケットの売れ行きに直結しますよね(チケットを買わないことが機会損失に直結するから)。評判を聞いて楽日に向かってチケットが売れていく、ってある意味理想の形のひとつだなあと。

誰もが知る「マリー・キュリー」という実在の人物のストーリーがもとになってはいるんですが、based on true storyというよりは、ifもの、ある種の二次創作的な色合いが濃い作品ではあります。マリーの人生において、どこかの時点で強固な絆で結ばれた友人がいたとしたら、かつ、その友人が「ラジウム・ガールズ」であったとしたら、という発想がベースにあり、だとしたら、マリー・キュリーは何に悩み、何に支えられることになっただろうか…?という発想を描いています。

個人的には、そうした脚色の温度も含めて、マリー・キュリーがいかに生きたか、というよりも、彼女を歴史上の人物でなく、今日的な人間として描き、我々が今まさに直面している問題と向き合う姿を描くのだ、という姿勢が作品に現れていた気がします。女性であるということでぶつかる様々な障壁、偉大な発見へ至る労苦、その発見につきまとう影。それらを、実際には彼女の死後に結審したラジウムにまつわる労働災害裁判と絡めていく。そのキーとなるのがアンヌという同郷の友人で、偉大な発見が偉大な功績を遺すものとなるだろうという未来への希望と、その発見で自分の魂ともいうべき友人を喪うことになるかもしれないという場面を創出する、その発想がすごい。

一幕の、いかに彼女はマリー・キュリーとなったか、という物語は、ある意味偉人伝のひとつにすぎないわけですが、マリーがアンヌと対峙し、「喪うことがこわくて過ちを認められなかった」と告白し、それをアンヌが「今のあなたはほんとうにバカみたい」と返す場面は、その後のふたりの歌も含めてこの舞台においてもっともエモーショナルな場面でした。この後に続くピエールを亡くしたマリーの姿とあわせて、二幕に立て続けに観客をエモの涙に沈めてくるやつ、これは…確かに…口コミで伸びるのもわかる!口コミしか勝たん!と自分自身もマスクを涙で濡らしながら胸打たれるしかないやつでした。トドメにあの元素の周期表持ってくるのずっちーな!まだ泣かすんかい!

マリーたちの研究に多額の出資をし、この作品においてはラジウム工場の社長でもあるルーベンという登場人物がいることで、どこか「悪魔との契約」というか、メフィストぽいというか、不穏さがつきまとう展開になったのもうまいアレンジだな~と思いました。

愛希れいかさんのマリー、清水くるみさんのアンヌが終始素晴らしく、特に「あなたは私の星」は心に残りました。あと、ルーベンのお付きの人でむちゃくちゃダンスがうまい、うまいっつーかレベチな人がいて、思わず目を奪われちゃいました。ダンスのうまさっていかに動けるか、じゃなくていかに止まれるか、なんだな…と全然明後日の方向で感心してしまいました。