「たぶんこれ銀河鉄道の夜」

ヨーロッパ企画上田誠さんの脚本・演出によるオールナイトニッポン55周年記念と銘打たれた公演。見に行こうと思ったのはね、フフフ、99%タイトルです。タイトルがいい。よすぎる。これ絶対見たいやつと思わせる。あと、銀河鉄道の夜モチーフの演劇って個人的にはずれがない印象っていうのもあった。

勤務先の美容院で上司に怒られ、かつての友人と距離ができ、仕事帰りに買ってきたほか弁はおかずを間違えられていて、それを親になじられ…弁当を交換しに街に出かけたナオは、街で開催されているフェスの賑やかさを後目に裏山に登る。そして思う、これって銀河鉄道の夜だ。

銀河ステーション、銀河ステーション、の声と共にいつの間にか銀河をゆく列車に乗っているナオ。でも乗っているのはナオだけじゃなく、ナオにとってのカンパネルラであるレナだけでもなく、あっちで炎上、こっちで謝罪、そんな風に人間としての「何か」が死に瀕した人たちが続々と現れ、車内は満席。そして皆口々に話す、これって、これって、たぶんこれ銀河鉄道の夜ですよね!?

リリカルな宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を地の文にして、今を生きるわたしたちの挫折や落とし穴がそれに重なっていく脚本が面白く、さすが上田誠さんだな~と思うことしきり。銀河鉄道の夜に乗り込んだ各人が「ゲーム」によって自分のエゴをむき出しにし脱落していく展開も、3人目あたりで違うパターンに持っていくのうまいですよね。ああいうの、各エピの面白さとはべつに「同じ展開が人数分続く」と気がついた段階で客って飽きちゃう。それを絶妙にズラして客の集中を切らさない構成力、さすがでした。

個人的に小説の文をラップで歌っていくのがちょっときびしかったかもしれない。というか、わりと音楽劇であるある展開な気もするけど、ラップって普通に歌うより難しいと思うのよ。でもって「それっぽくやった」ときのいたたまれなさも歌の比じゃないと思うのよ。宮沢賢治の小説の言葉はさすがにキラキラしてて美しいけど、なんかもうちょっとやりようがあったのではという感じ。

しかし、銀河鉄道の夜の芯であるところの、ジョバンニとカンパネルラが、ナオとレナが、「ずっと一緒に行こうねえ」と語ったふたりが、その運命が分かたれるあの瞬間、振り返ってもう誰もいない座席を見るナオ(ジョバンニ)という展開はもうそこだけでこっちの心を揺さぶってくるからたまらない。これだけの時間を経ても、この作品をモチーフにしたい、この構図を借りて語りたいことがある、と思わせるのも頷けるし、だからこそ銀鉄モチーフの作品が数多く生まれるんだろうなと。今作では、レナが実は自分はザネリではないかと述懐するところ、そしてそれを受け止めるナオの場面がとてもよく、だからこそいっそうラストでレナの運命を受け止めるナオの姿にぐっと胸に迫るものがあったと思います。

一見穏やかなのにとつぜん武闘派な発言をしたりして、その実正体は作者の宮沢賢治でした、な役を演じたかもめんたるのう大さんがとてもよかったなー。声の良さ、脚本の面白さを100%活かす間合いの数々、正体不明な佇まいも含めてすごく印象に残りました。宮沢賢治ギャグ、手叩いて笑っちゃった。若いキャストをしっかり支えるヨーロッパ企画の面々も実に頼もしかったです。