「法王庁の避妊法」

楽しみにしていた再演でした。初演・再演とも見させていただいていて、本当に良い芝居だなあと惚れ込んでいた脚本ですので、時が経ってまた(鈴木裕美さんの手で)再演され、新しくこの作品に触れることが出来るというのは、とても贅沢で嬉しい経験でした。

再演されると決まってから戯曲を読み返したりもしていて、だからこそなんだか的はずれな宣伝文句には本当にはらわたが煮えくりかえるほどムカついてました。本当はそんな芝居じゃないんだよ、こういう素敵な台詞があるんだよ、と日記なんかで何度も書きそうになったけれど、それは観る人の楽しみを奪う行為と紙一重だと思ったし、観れば絶対に伝わるのだからとぐっとこらえてきましたが、東京公演での空席の多さなどを漏れ聞くと、なんだかとても悲しい気になってしまったり。いやもちろん私ごときでどうにかなることじゃないですが、もうちょっとどうにかならなかったのかい、ホリプロさんよ、と思う気持ちは抑えきれず。愚痴になりました。すいません。

産むのか、産まないのか。女性にとっては、「どう生きるか」と同じぐらいの重さをもってこの選択は迫ってきます。この物語はいろいろな問題を照射し、時には哀しく、時にはおかしくその情景を描写していきますが、それぞれに対する一つの道しるべが、劇中で「子供は授かり物である」だから「実験のために子供は作れない」と荻野博士の頼みを突っぱねた妻・とめに友人の医師、高見がいう台詞にあると私は思います。
「今、子供は天からの授かりものではなくなり、これから、ますます授かりものということから遠ざかっていくでしょう。その時、女性たちは悩まなければならない。今までは、自由に選べないために女性たちは苦しんできました。これからは、選べるが故に悩まなくてはならないんです。それは苦しいかもしれないが、進化した悩みです。確実に一歩進んだ偉大な悩みです。あなたは選べるということを悩むことになった世界で初めての女性なんです。」そして「進歩を確実に福音にしていくためには、その進歩で幸せになれるのかを、考えなくてはいけないのだと思うんです。」

この物語には、選べないということを許容する女性、選びたいと熱望する女性、そして選ぶという行為そのものにためらいを覚える女性が出てきます。だけれども問題は、選ぶか選ばないかではない。どちらの道を選択するにせよ、それが幸せに繋がる道であるかどうかなのです。そうでなければ、進歩は福音ではなくなってしまう。「子供は授かり物である」という言葉や、選択できないことを許容していた時代は、シンプルで、時にとても美しく感じられます。特に今のこの時代から見ると、選べるということ自体が重荷に感じられることすらあります。しかしだからこそこの高見医師の言葉は、「産む」ことを選択する女性にとっても、「産まない」ことを選択する女性にとっても、とてもとても大きな意味を持つ台詞であるように私は思うのです。

更に私がこの作品をとても好きな理由の一つは、こういったある種根源的な問いかけを繰り返しながらも、まったくもってエンターテイメントとして第一級の作品である、という点です。ある種天才ゆえの荻野博士の暴走ぶり、より子と古井、キヨとハナそれぞれの対比で見せる場面のおかしさ、哀しさ。話の盛り上げもおさおさ怠りなく、3時間弱のかなりな長尺ものですが観ている者を飽きさせない脚本&演出の手腕には相変わらず脱帽ですね。

キャストについてですが、いやはや私にとってももっとも予想外な事態になりました。初・再演の影に悩まされるとしたらそれはおそらくハナ役の持田さんかとめ役の稲森さんだろうと、そして絶対に悩まされないだろうと思ったのが西牟田・勝村・三上の三氏だったんですが・・・いやハナ役の持田さんは確かに戸川京子のさんの面影がちらついたんですけれども(でも可愛らしくて一生懸命でそこはとても良かった)、高見医師にこんなにも樋渡さんの影がちらつこうとは!!!むしろ樋渡さんより三上さんの方がハマリだろうとまで思っていたのに!!三上さんもちろんうまいし期待通りの好演で文句があるわけではないんですが、き、消えないのよ樋渡さんの高見がさ・・・どうしたことだい。思わぬ収穫は古井役の横堀さんかなー。今まで見た古井の中で一番好感♪より子役の西尾さん、今日見たとき、より子の肝の台詞を吐かないといけないところで興奮のためか鼻血がでてきてしまって、もう私はあああ、大丈夫かなあああ!とそっちに気を取られ。でも頑張ってやり通してらっしゃいました。えらい。

それと改めて言うのもなんなんですが、勝村さんはうまいねえ・・・。ひょっとすると頭ひとつ抜きんでてうまいのかもなとまで思う始末。というのも今回非常に「動く」芝居づくりになっていて、それは笑える部分では良いんだけど、核となるシーンで客の気持ちを切り替えることがちょっと難しくなっちゃう印象があって。大事な台詞なのに流されてるなーみたいなさ。でも勝村さんはその緩急が自在なんだよなあ。あんだけ無駄な動き(褒めてます)満載で笑わせておきながら、お母さんの話するところではがっつり気持ちもってくし。はー。ちょっと改めて脱帽でした。