「ベスト・オブ・エネミーズ」ナショナル・シアター・ライヴ


2023年に公開されたナショナルシアターライヴの作品で、好きそうなやつ~見たいな~と思っていたんですが、何しろナショナルシアターライヴ公開日程短すぎて合わないときは本当に合わない!ということで見送っていたんですけど、10周年記念のアンコール上映が年末年始にかけて行われ、タイミングがばっちり合ったので念願かなっての鑑賞となりました。

1968年、ベトナム戦争への抗議運動が高まる中で、来たる大統領選に向けた党派活動が盛り上がる中、NBCCBSに視聴者数で後塵を拝するabcは、政治信条の異なる2者を生番組で討論させることを思いつく。白羽の矢が立ったのは、保守派のウィリアム・F・バックリーJrと、リベラル派ゴア・ヴィダル。口から生まれた口八丁どころか口十六丁ぐらいある2人が、大きな政府の問題、ベトナム戦争、家族…と「アメリカ」を取り巻く物事に対して舌戦を繰り広げるが、しかしそれはだんだんと、ディベートとは形の違う何か、「ショーとしての討論」に姿を変えていくのだった。

1968年といえば、アーロン・ソーキンが監督した「シカゴ7裁判」の、あの暴動のあったシカゴ民主党大会があった年で、この作品でもクライマックスはそのシカゴ党大会での出来事が語られる(途中The Whole World is Watching!のシュプレヒコールも出てくる)ので、なんとなく時代背景的なものを感じ取りながら観られたなと思います。基本的に主演ふたりの丁々発止の議論で構成されているので、ソーキンの作品を見るときもそうなんだけど、これたぶん字幕けっこう追いついてないんだろうなー!というところもあり、吹替で見たらまた違う印象になりそう!と思うなど。

ゴッリゴリの保守派であるバックリーJrを黒人であるデヴィッド・ヘアウッドが演じ、バイセクシュアルを公表していたゴア・ヴィダルをゲイであることを公表しているザカリー・クイントが演じており、これはかなり考えられたキャスティングだな~と唸りました。仮にこれ逆のキャスティングだとすると、たぶん受ける印象が全然違ったものになったんじゃないかな。

実際に行われた2人の討論番組の映像をもとに書かれた脚本だそうですが、ヴィダルがバックリーを激昂させ、「言ってはいけない一言」を言わせて勝者になったかのように見えるけれど、そこで一気に「今」の視点からの場面に展開していくのがすばらしい。あの短く激しい、お互いの急所をいかに突くかに汲々とした「番組」を俯瞰の位置から振り返る。こうして政治的議論をお茶の間に届けたことは果たして何を生んだのか?何が正しいか、誰が正しいかではなく「どう見えるか」が民衆の支持を分ける、それはいったいいつから始まったのか?年老いたふたりのその後を語りつつ、最後には静かにお互いの話を聴くバックリーとヴィダル、そしてabcのアンカーが、この問題を「わたしたち」に投げかけて終わる。いやーーしびれましたね。最後で一気にこれが演劇である意味、演劇ならではの醍醐味を味わわせてくれたなと。

舞台セットもすばらしく、コンパクトでありながらテレビというものを象徴的に見せていてよかった。堪能させていただきました!