「ZIPANG PUNK〜五右衛門ロックIII」新感線

2008年に五右衛門ロック、2010年に薔薇とサムライ、そして2012年に五右衛門ロック3と、わずか4年でシリーズ3作品。それだけでもこのシリーズがいかに新感線にハマッたか、がわかろうというものです。しかし、柳の下のドジョウの喩えもあるとおり、シリーズが重なれば重なるほど作品として成立させるのが難しくなってくるのもまた事実。まあ正直そんなに期待値高くなかったですよ個人的には。

駄菓子菓子!見たらやっぱり楽しい。やっぱり燃える。もう後半ほとんど展開がわかっているのにそのお約束がちゃんとやってくるというだけでうっすら涙ぐみそうになりさえするこの嬉しさはなんなのか!

過去のシリーズのキャラクターも引っ張り出し、まさに「お得意の」を重ねた4時間。第一幕はお膳立てというか撒き餌というか、物語の立ち上げなので、そして過去のシリーズと比較しても歌の比重が高いので、これはまあ長くなるのもむべなるかな、という感じだったのだが、二幕のスピード感と気持ちよさがハンパない。

左右に字幕がわりのスクリーンを置くのは、文字で見てわかる、というネタが数多くある中(暗号解読が大筋にあるだけに)うまい処理だなーとは思いつつも、どうしても視線が定まらない、というつらさもあり。やっぱりもう一回見ないと…といって人はリピートの罠にはまってしまうのであった…

そしてもう、今回何をおいてもこれだけは声を大にして言いたい、三浦春馬が素晴らしすぎる。まさに脱帽です。こんな出来る子だったとは、ほんとに己の不明を恥じる、恥じるね俺は。登場していっぱつめのダンスでおおっスゲー!と思い、歌うまっ!身体キレッキレ!と以後も驚きの連続であった。このシリーズは五右衛門がドラマを背負わず、他にドラマを負ったキャラが登場して、というのが常なわけですが、それを今回担っているのが三浦春馬くんなわけです。で、何に感心したかって、踊りとか歌とか、訓練しないとどうにもならない、という部分が出来てるってことにもですけど、何よりあの大きな劇場で芝居を届けようとする力がちゃんとあるってことです。もう、そこに何よりも感心しました。かけてるリボンが大きいんですよ*1。新感線においてはそれはかなり重要なことだと思うんですよねえ。

もうひとりそのドラマを担う役だったのが蒼井優ちゃんで、もちろん悪くないのだが、春馬くんと較べるとどうしてもかけてるリボンが小さく感じてしまうところはあるなあ。あとマイクを通すとどこかトーンがすべて同じように聞こえてしまうのも残念だったところ。

薔薇とサムライから続投となったシャルルの浦井さんは期待を裏切らない存在感、いやーここまでおポンチなテイスト醸し出してくれるとは、新感線のお客さんはこういう役者が大好きです(笑)そうそう、二幕でマイクが故障するというトラブルがあったのですが、咄嗟に地声で切り替え、歌のときにはハンドマイクで乗り切っていて、ご本人の対応力とスタッフワークに思わず拍手*2

新感線ファンとしてはじゅんさん粟根さん聖子さんの登場をどうしても心待ちにしてしまう部分があるのですが、歌が多いぶん決まり事も多くて、それなのにわずかの間隙も逃さずいろいろぶっこんでくるじゅんさんと聖子さんの新感線スピリッツには感動すらおぼえるよね。立ち回ったあとのシャルルの介抱(っていうのか)、ものの1分もなくハケていくのにどんだけネタを仕込んでくるんだってぐらい笑わせてくれるっていう。お客さんみんなじゅんさん好きすぎ!私もだけど!

でもって粟根さんとじゅんさんの最後の展開は「きゃー!キタキタキターーー!」と心が躍りました。躍りまくりました。くっそ…中島かずきさんの手のひらで踊らされてる!でもうれしい!粟根さんの今回の役も好きだなー。そして聖子さん…もう、抱いて!としか言えない。じゅんさんと同じく、どんな小さな隙間も見逃さないたくましさ、あの最後の連続技、あれが出来る女優は聖子さんしかいないよ!

悪役側の新キャラに村井国夫さん、そして麿赤兒さんが秀吉役で出演されていて、レミゼを始め数々のミュージカルで美声を聞かせてきた村井さんの歌の見せ場もふんだんにあって、歌えるキャストの強さを改めて感じましたし、麿さま…もう、さまと呼んでしまいますが、第一声から格の違いを見せつける存在感。二幕後半はほぼ独壇場ですよ!それだけでなく最後の最後まで見せる見せる、あの「大悪党め!」のためだけにもう一回行きたいと思うぐらいだ。こうして人はまたリピートの罠に…(もういい)

で、そうはいっても最後にすべて持っていくのは古田新太っていうね!ああ〜もう、こうなるってわかってるのに登場シーンで震えるし、お約束のシーンではもう、アンタが日本一だよ!と思ってしまう。途中で一カ所、完全に台詞が出てこないとこがあってアラ珍しいと思いました(いつもなんとなく誤魔化すのにさー)。二幕終盤は、もうお客さんみんなくるぞ、くるぞ、ってわかってて、やっぱりキターーーー!の拍手喝采がすごかったよ。ほんっと千両役者だよなあ…!

今回は(前回も?)誰も死なないっていうか、ルパン的というかエバーグリーンな感じの幕切れで、そのあたりもよかったです。これほんとシリーズ最後なのかなー。最初に期待値高くなかったって書きましたけど、ほんと予定も1回だけだったし、パンフも買わないつもりだったんですよー、でも結局パンフ買っちゃったし大阪公演も見に行く!行くったら行くんだもんね!と罠にはまりまくってますが何か。ザ・新感線を見に行って、ザ・新感線を観られた喜び、まさにプライスレス!

*1:この「かけてるリボンが大きい」というのは演出家の鈴木裕美さんが、かつて新橋演舞場で初演出をやったときに、初日見ていて「あっこれじゃダメだ」と思い、翌日以降役者さんに「ごめん、もうちょっとリボン大きめにかけて」と言ったときの言葉で、個人的にスゲーわかる!と思ってよく使っています勝手に。

*2:以前とある舞台で役者さんのマイクトラブルを放置するというひどい芝居がありましてな…もちろん新感線ではない