「水の戯れ」

岩松さんの作品、すごくツボにはまるときとそうでないときとあるんですけど、宮藤さんがラジオですごくよかったと仰ってたので名古屋公演のチケット急遽とって見てきました。

岩松さんの作品って、ある種の「不穏さ」みたいなものが徐々に徐々に沈殿していって、その空気が破裂するのか、しないのか、というところが好きなんだけど、その空気ができあがりそうになってはしぼみ、という印象を個人的には受けました。死んだ弟の妻に対する思いを募らせる一幕、その思いをこじらせる二幕、不穏さはもちろん二幕のほうが圧倒的に高まるわけですが(増山が制服でくるあたりから、アッ…とじわじわ行く末を想像させるあたりとか)、クライマックスに至るまでの時点でその不穏さが冷えてしまったような感じ。

春樹が明子に対し圧倒的に恋い焦がれていながら、どこかで「あの女はぜったいにおれのものにはならない」という底冷えした諦念があって、それが二幕のふたりの、お互いがお互いをただ傷つけるだけ、といった雰囲気につながっていくんだけど、明子役の菊池亜希子さんにそこまでのファムファタルぶりを感じられなかったというのも大きいかもしれないです。たしかに春樹があれだけの執着をみせるだろうという美しさなんだけど、自分で自分を持て余すようなわけのわからなさはなかったかなー。

わけのわからなさ、ひとを落ち着かない気持ちにさせるという点では根本宗子さんのやった菜摘のほうによりそれを感じたかも。出てくるとちょっといらっとするんだけど、でもどこかで登場を待ってるところもあり。彼女と林鈴のやりとりはよかったな、わたしのこときっと思い出すわ、誰にも内緒だよってキスしたこと、ずっとずっとおばあちゃんになっても思い出すわ。

光石さんの、あの一途でいて、同時にその一途さが横暴さに貌を変えるあたり、すばらしいですね。あのワンピースを見た明子に「なんのリアクションもない」ことをなじるところ、あんなひとすげえいやだよ!と思うし、同時に切なくも思うっていう。成志さんのやったお兄さんと明子の間に流れる空気も、もう一歩二歩踏み込んだとこがあってもよかったのかなー。死んだ弟を思いやる台詞もあったけど、すごくものわかりのいい兄、という感じだったんだよね。その裏にあるものをもっと見たかったという気がしました。