「6才のボクが、大人になるまで。」


原題「Boyhood」。邦題長すぎでしょこれ!この邦題で行く気になる人どれくらいいるんだろうかと心配するレベル。実際にキャスト・スタッフが12年の歳月をかけて、1年のうち数日間集まり、6歳の少年が18歳になるまでの家族を描いた映画。すばらしかったです!

12年かけて描く、それはほとんどドキュメンタリーじゃないかと思われるかもしれないし、実際にその「リアリティ」がこの映画においてものすごい威力を発揮していることは事実です。けど、これはあくまでもフィクションだし、なにより「12年かけて撮ったんだよ、実際に俳優が年をとってるでしょ、すごいでしょ」みたいなドヤ感がないところがすごくいい。

描かれるのはほんとうに、どこにでもある(だろう)家族の風景で、離婚した父と母のいさかい、母の再婚、父と過ごす時間、思春期、異性への興味、自分自身への問いかけ、そして巣立ち。そこにドラマならではの極端な出来事、極端な感情は出てこない。たとえば、中盤に子どもらが義父の運転する車に乗るシーン、たとえば、友人の兄に連れられて建設中の家に入り込んで酒と女の話をするシーン、わたしたちが普段、フラグだフラグだとわかったようなことを言うそれらは実際なんのフラグでもない。事故は起こらない。大人に警察に突き出されたりしない。主人公はそれらを地層のように積み重ねて「大人」になっていくだけだ。

けれどそういったわかりやすい「劇的なできごと」がなくとも、ひとりの少年が大人になっていく、それ以上に劇的なことなんてない、これ以上のドラマなんてない、と思わせる。大学に持っていく荷物に最初に撮った記念の写真を入れる母親とのやりとり。あそこで母親がおもわず、といったように溢れさせる心情には、子供をもったことのない私ですら顔を覆って泣きたくなってしまうような力があった。「HERO」をバックに未来へ向かって車を走らせる青年に、まるで今までみてきた6歳から18歳の少年の姿が、地層のように重なってみえて、感情のコップがいっぱいになったかのごとく、何を見てもすべてに物語があるようにみえてくるラストは、圧巻の一言でした。

同時に、12年という歳月をかけた「アメリカ」の物語でもあって、9.11、派兵、右派と左派、銃、宗教、貧困、アルコール、妊娠、離婚、それらの要素が時代時代に浮き沈みして(しかし、どれかひとつに傾くことなく)見えてくるところ、まさにアメリカの映画だなあと思うし、実際にその時代をその国で生きた人が見るとまた違った感慨があるのだろうなと。

人生の中でたまさかすれ違い、そしてもう会えないひとびとの消息が安易に描かれないところもよかった。子供のころに仲良くしてた近所のお兄ちゃん(あの自転車で手を振る一瞬のシーン!)、突然引き裂かれた義理のきょうだいたち、彼らはどうしたんだろうか、その消息をいつか知る日はあるのだろうか、でも、実際にはそうやってすべてを知ることなく人生は過ぎていくものだよなあ。

シングルマザーで子供ふたりを育てる母(パトリシア・アークエット*1)、夢見がちだけど愛情ある父(イーサン・ホーク)、そして彼らをとりまく人々、どこにも完璧な人がおらず、それがまたよかった。父が一時的に同居しているミュージシャン崩れっぽい男性が、ものすごいモテオーラ溢れさせとるな!と思ったらチャーリー・セクストンだったのでびっくりしました。かっこええはずや!

好きなシーンたくさんあるんだけど、中でもボウリング場で父が娘に避妊のたいせつさをしんしんと語る場面は、俳優の演技もすばらしくまさに名シーン。母に対して、あれだけ失敗をして、懲りない、と思わせるところもありつつ(本人も自虐的に「いつも最悪の選択をして家族を窮地に陥れるの」と言うシーンがありますよね)、けれど子供たちと深い信頼関係があることが、そう語られなくても伝わってくる。だからこそあの最後の台詞がね…!かなしいでも、せつないでもない、あれはなんなんでしょうか。あのシーンを見るためだけでもこの映画観る価値あると私は思います。

映画全編を彩るその時代の音楽の選曲センスも最高で、サントラが欲しくなる映画だったなー。ぜひ映画館で見ていただきたい映画です!

*1:映画の撮影が始まった時点ではまだ彼女はアリソン・デュボアじゃなかった!そう思うと12年てやっぱりすごい