「キレイ-神様と待ち合わせした女-」

初演が14年前、再演ですらもう9年前です。ぎゃー!おののくしかない。再演、再再演の演目がかかるたびに「アレついこの間のことじゃなかった?」みたいになる現象が年々加速する一方です。
以下、わりと具体的な台詞とかを引用したりしているので、ネタバレ気になるかたは回避が吉。

初演が好きで好きで、DVDもあきるほど繰り返し見ていて、そういうのってちょっと過去の記憶にとらわれがちになって素直に見られなかったりするもんだけど、三演目の「キレイ」はなんというかすさまじくよかった。今回初めてこの物語にふれたひとは、きっと初演を見た時の私と同じように興奮に震えるだろうなと素直に思えた。休憩15分を挟んで3時間40分、かなりの長丁場ですが、それがまったく気にならない。物語もよりシェイプされて、でもたっぷりみせるところはよりたっぷりと。ほんとにすごく完成度が高くなっているなと思いました。

完成度の高さを感じた要因の一つは間違いなくオケの音の分厚さで、最初の「ケガレのテーマ」でもうすでに胸がいっぱいになったもんね…というか、冒頭から好きなナンバーが立て続けなのでのっけからテンションMAXだった。あの「子だくさんが好きさ」の入り、カネコキネコの「日が暮れる」から音が入るとこめっちゃくちゃ好きだ!「振付もかっこよかったなー。

とはいえ、一幕のラストだけは、やっぱり歌が入らなかった方に心残りがあったりするんですけども。というか私はあのシーンが好きすぎるんだと思う。「わたしの親切の邪魔しないで!」って、松尾さんの台詞のなかでも5本の指に入るほど好きだし、そこからの「とにかく私は…儲けたわ。」ってあのケガレの台詞につながるところ、ほんとたまんないです。

キャストも皆はまっていた、というか、役者のレベルが揃っているという点では今回がいちばんバランスがいいのかもしれない。オクイさんと田辺さんは逆でもいいのかなというか、私がオクイさんのマジシャンを観たいだけだろ!って感じですけど。てへ。中でもすげえなと思ったのはまず皆川さんのカネコキネコね!キャストが発表になって、役がまだわかんなかったとき色々想像したけど、このラインだけは読めなかった!でもって、もう、絶品でした!いや、初演再演この役をやったのは片桐はいりさんで、まさしく余人をもって代えがたい役者さんだったわけだけど、そのカラーの強烈さはそのままに、でも決してイロモノにならず、パワフルさは殺さず、絶妙な存在感。「子だくさんが好きさ」の「強さだよ、それは!」のキメとかぞくぞくするほどよかったです。

この芝居で私が一番好きなナンバーは「ここにいないあなたが好き」で、一番好きなキャラがこれを歌うカスミお嬢さま。楽曲もカッコイイ仕上がりになっていて狂喜したんだけど、田畑さんのカスミも思った以上によかった!ケガレの多部ちゃんとのバランスが合ってたよなー。小池徹平くんのハリコナA*1、尾美さんのハリコナBもどっかに地続き感がありつつ、いいコンビでした。

でもって阿部サダヲですよ。ああ、ああ、どうしてあなたは阿部サダヲなの。いやすごい。知ってたけどね!すごいってこと、知ってたけどね!初演再演のハリコナは伝説級のかわいさで、確かに私ももっかいサダヲのハリコナ見たいななんてこと、思わないわけじゃなかった。しかしそれを吹っ飛ばすね。なにがこわいって、この「キレイ」の物語がまるで、「ダイズ丸の物語」のように見えてくるとこだよ。物語の主軸を自分に引き寄せる力がハンパねーのよ。「あんたのおかげで、ほぼまんべんなく生きた」って台詞がこの物語そのもののように思えてくるんだよ!しかもダイズ丸、割とアンサンブル的な登場シーンが多いので、舞台の上にいる時間が相当長い。そしてその度にそっち見ちゃう。「ここにいないあなたが好き」でがっつりアンサンブルとしてダンス踊るけど、見ちゃう。ダイズ丸にガンガン持ってかれる自分に、文字通り「サダヲ、おそろしい子…!」ってなったのもむべなるかなだよ!

多部ちゃんのケガレ、すごくよかった。歌の素直さ、芝居の素直さ、それがケガレという少女をぴっかぴかに輝かせてた。松尾さんの多部ちゃんに対する信頼と愛情がハンパなく、それがひしひしと伝わってくる舞台だったと思う。そして、あんなに歌えるとは!おばちゃんビックリよ!

ハリコナとケガレがくるいおどりをしながら、未来のあたしは儲けているかな、というところ、へたりこんだ未来のあたしをケガレがよしよしするところ、ケガレとミソギが交錯する場面はすべからく美しくて、どうしようもなく胸がきゅうっとなる。あの地下室から出てくるケガレが押し上げる扉と、帰っていくミソギがこじ開ける扉とが重なるシーンがたまらなく好きです。そしてよろしく生まれ変わるの。普遍的ともいえる物語の構図、どんどん磨き上げられていく楽曲と演出、時を重ねてもまったく色褪せない、この芝居が真に傑作であることを体感した3時間40分でした。

*1:今回A/Bの表記じゃないけど、もうこれ癖