「人間風車」

チラシのアオリ文句に「カラダの翼をココロに返したから・・・」って書いてありましたよね?あれ見たときはて、これはどういう意味なんでしょう?と思っていたのです。初演には出てこなかった台詞だなーと思って。ま、芝居を観るときにはこの台詞のことはすっかり忘れていたんですけれども。

こどもには受けるが、親には受けない、童話作家とは名ばかりの平川。彼は新聞配達で生計を立てている。親友・国尾は何かと世話を焼いてくれるが平川はあくまでマイペース。そんな平川が、ある一人の女性との出会いをきっかけに恋に落ち、そして、素晴らしい童話を書きあげる・・・・しかし、その先に待っていたものは・・・・・。

初演と較べて、怖さが半減したとか、後味をよくしたとか、いろいろ聞いてたんですけど。・・・怖いやんけ!!やっぱり怖いやんけ!!(笑)確かにスプラッタなシーンは殆ど無いし後味もずいぶん良くしてますよ。でもさ、違うのよ。あたし、わかったね。(←えらそうに・笑)何がって、この作品の怖さは人間の想像力の怖さなのよ。舞台で、所謂ホラーをやろうとするのはすっごく難しいと思うし、なかなか成立しないといわれてきた。サイコ系のホラーはできても、スプラッタは難しい。だって、見えてるんだもんね。ウソだって見えてる訳じゃない?映像なら、エイリアンが人間を襲うシーンをリアルに出来ても、舞台でそれはさぁ。だって、ほんとに食べられてるわけないし。ほんとにエイリアンなわけないし。

だけどさ、これはさ、平川が心の闇のありったけをぶちまけてリアルにリアルに語るじゃないですか。どう殺すか。どう死ぬかを。で、それが現実になってゆくとわかるときの怖さ。ああ、この子供はああやって殺されるんだと思いながら見てる訳じゃん?そうすると目の前で描かれているシーン自体にリアルさがなくてもこっちの心が勝手にリアルにするんですよ。さっき聞いてしまった描写を確実に再現する訳ですよ。心の中で。もう、悪魔的としか言いようのない脚本の上手さなんだけど。
だからねーーー。やっぱり怖かったです。はああ。

初演と変えていたのはほんとに最後の最後だけというか。アキラが死なないあたりから変えてましたね。(初演では頭の皮を剥かれたアキラ役の楠見さんが客席から登場するというおまけつき)しかし、どうするんだと思っていたら、その手がありましたかというぐらい素晴らしいオトシマエの付け方で。ほんとに手に汗握ってしまいましたよ。で、ここでこのチラシの台詞が来るかと。うめえなあオイっつーか。生瀬さんがこの台詞を言ったときに彼の目からほろっと涙が落ちてさーー。すごい胸が詰まりました。

キャストを聞いたときから、絶対阿部サダヲがサムだろうと思っていた(笑)凄かったですねー。サンマルチノのときなんかあーーんなにカワイイのに(「キレイ」のハリコナを思い出したのは私だけではあるまい)ビルに変わるときのあの顔の凶悪さ。迫力。大倉さんはもう持ち味全開で。好きだなぁーー!!出てくるだけで笑いが取れる域に達してるのって今やこの人ぐらいなのではなかろうか。しかも春ひまわりとかでめちゃくちゃ笑い持って行ってる癖に(いや、だからこそ)あの子供を殺すシーンが倍怖い。大倉さんと阿部さんが揃って咆哮して暗転になるとき、怖いんだよーーー(涙)大谷亮介さんは初見だったのかな?いや、どこかでお目にかかったような気もしますが(笑)すっごい良い台詞持ってくじゃねーかよこの野郎!って感じでしたね。渋い!!最近ちょっとお気に入りのカムカムの八嶋さんも良かったーーー。「刺すように俺を見て!」って(爆)好きだ、こういうタイプの役者(笑)ものすごく滑舌良いですよね。斉藤由貴ちゃんも、久々に舞台で拝見したんですけど、上手かったーー!生瀬さんとの公演のシーンとかすっごいほのぼのした感じが出てて可愛かったです。最初の大王とのコントも何気に面白いし。升・生瀬のご両人はね。もう、流石で。息もピッタリだし安定感あるし迫力あるし上手いし、言うことなし。キャストはほんとに粒揃いって感じでしたなぁー。

まったくもって悪魔的にうまい脚本だと思います。大王の天才ぶりを見せつけられますな。このバージョンも好きですけど、大王演出で初演のコワおそろしいバージョンもまた見てみたい気もしたり。