松尾スズキさんが東京成人演劇部のvol.1として公演する安藤玉恵さんとの二人芝居。ハコは小さいし(東京はスズナリ)、7月はちょっと忙しいし…今回は見送りかな…と思っていたのにフタをあけてみたらという例のやつ。大阪公演の追加販売にギリギリで引っかかりまして、もろもろ調整のうえ見て参りました。大阪公演の劇場は新しくできた読売テレビ新社屋の10hall。新社屋全体はまだ完成じゃないですけど、1階のホールだけ使えるようになってました。公開番組の収録とかで使うのかな、椅子もしっかりしたやつで、だいたいキャパ200強って感じでしょうか。立地もよいし(元シアターBRAVAのとこ)このサイズのハコとして関西で育ってくれるといいですね。
「26歳で劇団を作ってからというもの、失敗したらホームレスというプレッシャーとばかり戦い、楽しむことを忘れてしまったのではないか」と、だからこその「演劇部」としての立ち上げ、ミニマムな構成、セットデザインも松尾さん自ら。とはいえ、というか、だからこそ、というか、こういうホンを書くのって、本当に松尾さんのワンアンドオンリーだなと強く感じさせる見事な舞台で、いやー見に行ってよかったです。
子供は無職で引きこもり、親の年金で暮らしを立てる8050問題真っただ中の親子と、その親子を素材として8050問題のドキュメンタリを録ろうとする女子大生とその指導教授。しかしその親子は実は「8050問題を見せるセミプロ」だった、という切り口。切れ味の鋭い台詞がたくさんあって、心のメモ帳が忙しかったです。
ニートの息子が言う、どうしてみんな、無職にドラマを求めてくるのか、こっちは選択して無職をやってるんだ、って台詞があって、こういう視点ってまさにザ・松尾スズキというか、かつて障碍者を「かわいそう」とか「感動」だけの物語でくるむことをせず、「彼らにも淡々と消費する日常がある」と言ったひとならではだなと思いました。「それだけの金があったら一生遊んで暮らせる」「もう十分遊んで暮らしてます」のカウンターもすごい。
認知症の母親は何度も風呂場で夫(息子)を死なせてしまった話をするんだけど、クライマックスの「まだ手が離せない」、すごい、すごいパンチ力でしたね。風呂場で溺れた子どもの手を引っ張っているイメージが、一気に「まだ手のかかる子供で」という母親の共依存めいた言葉に聞こえてくるところ。唸りました。そこに畳みかけられる、「ただ、いたずらに、長らえるだけでもいいので」。参った。
ギャグもキレッキレで、なんといっても「野田秀樹がセサミンのCMに出る時代」に腹捩れるほど笑いました。安藤玉恵さんすばらしかったなー!タフさが違うというか、あの松尾さんとこれ以上ないほどガッツリ組んで、この世界観で、芝居のトーンが沈みきらず絶妙な軽さがあって観るものを引っ張っていってくれる。あと!効果音の吹越さんの参加ビックリでした。
演劇というか、物語のよさは、美しいものだけでなく「その先の地獄」の風景を一瞬見せてくれるところにあるよなと私は思っていて、そういう意味では私にとって松尾スズキさんはいつも「その先の地獄」と「地獄だけど、生きてる」風景を感じさせてくれる作家なんだなーということを改めて感じた公演でした。