「ララバイまたは百年の子守唄」

先にお断りしておきます。
辛口です。

劇団の主演男優が女優と逃げた、という一本の電話から始まる舞台。5日後に控えた舞台の本番をどうするのかをめぐる現実の劇団のストーリーと、本番で演じられる公演のストーリーと交錯しシンクロしていく。その公演名が「ハッシャ・バイ」。

まず、文句を先に言います。いっそ、ハッシャバイの再演にして欲しかった。自分がどこに行くべきなのか、自分に行くべきところなどあるのかという現実の物語の謎の部分を抱えた女座長を巡る話、つまり現実の部分の核が全く!見えなかった。ハッキリ言って消化不良。混乱を極めたハッシャバイの中の登場人物がはく台詞を、現実の役者達の心情とするには現実の部分でも、劇中劇に負けない程の混乱を、絶望を、深さを見せてくれないとおいおい、君がいきなりそのセリフ言うんかい!というツッコミがどうしても入ってしまう。そういう意味で鴻上さんの戯曲に疑問符。そして何より最大の文句は女座長をやった石田さんにだ。鴻上さんは今回の石田さんを、舞台にあげてお金を取れるレベルと判断したのか?だとしたらその方が私にはショックだ。私が舞台に立つ役者さん達に求めたい最大のポイントは舞台での立ち姿、その一点です。満場の客と対峙し、物語を背負い、傲然と頭を上げて舞台に立つこと。それを見せてさえくれればあとはもうどうでもいいとさえ思う。石田さんにはそれは出来ていなかった。あんなに舞台に立ってることを意識していない役者の姿を見たのは初めてかと思うぐらいだった。セリフはとちる、噛む、相手のセリフを聞いていない、聞いていないから受けられない、言葉悪いけど、ホント学芸会レベル。頑張っているのはわかるが、頑張っている姿を見にお金を払っているんじゃないんだよこっちは。

つぎは良かったこと。
同じ初舞台だった佐藤アツヒロさんはセリフこそ感情が乗りにくそうだなぁという印象を受けたものの、鴻上さんもパンフで書いているように、伊達に何百万人を熱狂させたわけじゃない、やはり俺を見ろ!的なパワーを感じる一瞬とかもあったりして、さすがだなぁと思えた。筧さんはさすがだった。素晴らしかった。文句がない。というより、今日芝居の中で筧さんを見ていて思った、鴻上さんの脚本は、役者の技量次第で最高にも最低にもなるんだなぁと。そして、これが私が見たかった筧利夫だよなぁぁぁ!!!!と思った。待ってたよこれを。現実の世界の中で、筧さんが自分の過去を語るシーンがある。そこはもう、圧巻。引き込まれた。引き込んでくれた。ただ語っているだけに見えても、それは石田さんが語るのとはまったく違う何かがあった。今回のキャストの中で、鴻上さんの脚本を完全に自分のものにしていたのは筧さんだけだと思う。でも、佐藤正宏さんはまったく違うアプローチで、鴻上脚本を自分のものにしていたように見えた。それにやっぱり、うまいわこの人。以前古田さんが、鴻上さんの脚本は純粋にストーリーを追ってつくっていく感情と途中のギャグがノッキングするので難しい、第三舞台の役者さんは大変だと思う、ということを言っていたけど、佐藤さんはそこは完璧にこなしていた。さすがッス。

若手の高橋さん・生方さん・旗島さんはとてもよかった。特に旗島さんは劇中劇で以前長野さんがやった女2をやっていたのだけれど、そのことを一瞬忘れるぐらいの力を感じました。本当にうまくなっているんだなぁ・・・・。高橋くんはね、かなりお気に入りなんですけど(笑)、あのーー、上川さんのテイストがちょっとありますね。と思った。今日見てて。生方さんも良かった、面白かったよ。ちゃんと面白くできるって大変なことだもんねぇ。

芝居の最中、本当にハッシャバイで使われていた音楽が聞こえてきたり、LIFE IS LIVEがかかったり、劇団空飛ぶクジラ(これってリレイヤーだっけ?)って名前があったり男優がバイクの事故で・・とかいう台詞があったりで、全然デティールで泣きそうになったりしてたんですけど(笑)、それとは関係なく今日見て・・ハッシャバイっていう脚本の何かがね、わかるような気がしたっていうか・・・うーん、あとちょっとでなんかつかめそう!って感じになったんですよね、途中で。でもそれが何かわからないまま終わってしまった。・・・・ってことでやっぱりハッシャバイをじっくり見せる作品にして欲しかったなぁ・・・・・と、思ってしまったわけです(笑)



2回見させていただいたんですけど、2回目見てた時にね、ハッシャバイの中に脱出の方法はただ一つ、深く深く絶望することっていう台詞がありますよね。私は今まで何遍も戯曲を読んだし舞台も見たし、だけどこの2回目の観劇で初めてその意味がハッキリとわかったんですよ。それは言葉で言うと難しいんだけど、「あっそうか!」って感じに「わかった」んです。その瞬間どうしようもなく泣けてきてしまいましたね。その感覚をもらえただけでも見に行って良かったなと思いました。

今まで舞台で見たなかで、この主演女優の彼女がもっとも腹が立った。あんな腹立った事ないな、この後も。おかげで一生いいイメージ持てそうにないね。