- シアタードラマシティ 1列37番
- 演出 宮本亜門
最初発表になったときは、あまり行く気がしていなかったんですが、漏れ聞く評判やネットでの感想読んでいると「これは私好みかもしれないなー」という気がしてきまして。東京公演の感想でも、「日生はデカすぎ」という声が多かったんですが、逆に言えば大阪のドラマシティはジャストサイズなのかも、とも言えるわけで。当日券狙いでのこのこと出かけていったらば、なんと最前列のお席が頂けたという・・・ツイてる。こういうときは星の巡り合わせに手を合わせて感謝。
入れ子構造、というのかしらん。ミュージカル好きなロックストック巡査の作ったミュージカルを、看守と囚人達が演じているという外枠があり、その中で水不足のためすべてのトイレが有料となった街、ユーリンタウンを舞台に物語が繰り広げられる。勝手におしっこするやつは、例え神が許してもUGC(ユーリン・グッド・カンパニー)が許しはしないのだ。
繰り広げられる音楽、ダンス、歌はあくまで明るく、パワフル!でもお話は、限りなくシニカル!す、素晴らしい!笑いながら手拍子しながら背筋をちくりちくりと刺されるなんて、これこそ舞台表現の醍醐味よ(そうなんですか?)。ものすごい美しい旋律に乗せて「したいときにおしっこできる世界〜♪」と歌う。パワフルで力強い歌声で「おしっこも商売!」と歌う。歌ってる中身はくだらないこと、でも実は根源的なこと。演劇という表現には短所も沢山あるけれど、「もうここがユーリンタウンじゃないのかしら?」の一言で、「ここ=今私達のいる世界」に疑問符を投げかけられる、その縦方向へのボールの投げやすさというのは映画にも文学にもできない仕事だなあとこういう作品を見ると思いますね。またそれが説教臭くなっていない点も花丸。勿論、歌やダンスを存分に楽しむという見方も全然アリで、更に言えば「明日に縋る生き方」と「今を求める生き方」のどちらに自分が立つのかをゆっくり考えてみる見方もできる。いろいろな切り取り方が出来そうな感じ。
円形の檻、高さを充分に活かしたセットが見事でした。通路席を使う演出が多かったのは、客席を「ユーリンタウンの市民」として巻き込むための手法かなと思ったり。特にドラマシティだと、1幕最後のフィナーレで客席を挟んで向かい合う場面などはほぼ客席の半分を取り囲まれている印象になって、その効果は絶大だった気がします。ラストの、解放者もまた最後には敗北者となっていく、というあたりはもっと劇的な演出でもよかった。まあ私の好みの話ですが。歌で印象的なのはなんと言っても「ラン、フリーダム、ラン」。楽しさに思わず手拍子、なのになぜか胸がきゅーっとなってしまって涙が出そうだった。うっかりあの熱にうたれてしまったというか。歌は二幕の方が印象的なものが多かった。二幕オープニングからして好きだし。あ、そうそう、懐中電灯を使った演出よかったなーー!あれすごく好き。
役者さんではキャストそれぞれの皆さんの歌のうまさにうっとり感動。特にマルシア姐さん。ボビーのさわやか一直線キャラに別所さんのさわやかな歌声が合う合う。蘭々ちゃんはホープのキャラ作りにはちょと疑問が残るものの、歌のうまさにおっちゃん驚きました。高泉さんも本領発揮って感じかな。アンサンブルの皆さんもまた惚れ惚れするほどのうまさで・・・っていうか、高谷さんとか大森さんとかアンサンブルっていうのもなんなんですが、って感じですよねえ。人数がそんなにいるわけでもないのに、ド迫力の歌唱が拝めて幸せでした。ナンちゃんの楽しそうなダンスもよかったー!しかし私のベスト汚物簿、おっとオブ・ツボは藤木孝さまですわ!!た、たまんねえ!大好きだこういう役者!声良し姿良し胡散臭さ良し、みたいな。声も濃すぎる演技も身悶えするほど好きです。片方の眉がキュッとあがったりする表情とかもう、いちいちツボ。全然関係ないが日本人で指輪物語やるならデネソール侯が出来るのは藤木孝さんだけではないだろうか。本当に関係ない。すんまそん。
想像していたよりも歌・歌・歌のミュージカルではなくて歌・芝居・歌みたいな感じだったのも、私はすごく馴染みやすかったのですがその辺は好き嫌いが別れるところかもなとか思ったりもしました。それにしてもなんともいやらしくて素敵な芝居でした。満足満足。