「returns」東京サンシャインボーイズ(感想編)

  • シアタートップス F列4番
  • 作・演出 三谷幸喜

同じぐらい長いです。そして、ネタバレしています。ご覧になる方はくれぐれもご注意を。
いろんなところに過去の作品へのオマージュが感じられる舞台でした。12人という数自体、どうしても「12人の優しい日本人」だし、同窓会のような集まりは「罠」でもあるし。
あの狭いトップスの舞台に、これだけの役者。このぎっしり感ってひさびさだなあと見ながら思いました。ああでも、サンシャインのトップス初登場が「12人」で最後が「罠」っていうのは関係あるのかなやっぱり。当然のように一幕もの、出ずっぱりの1時間20分。上演時間が延びたのは、やはり書くとなったら全員に見せ場を用意する三谷さんの筆が走ったということなのかも。終演は11時近くになっていました。

チケットがオークションに出た回なんかは徹底した身分確認がされたようですが、私の見た回はなし。しかしトップスであれだけスムーズな客入れ初めて見たかも。観客がトップスの作法に慣れてる感じ。すごくいいテンションを保った客席でした。みな、よく集中していた。

居酒屋大自然とか、サンチョパンサとか、チンゲさん連呼とか、そういう懐かしさも存分にあり、かつ12人の隠されたパワーを順に探していくところなどは、バカバカしくもなんとも絶妙なテンポと間で飽きさせず、ほんとげらげら笑いっぱなしでしたよ。

出だしは若干かみ合わない部分もあるかなと思うところもありましたが、どんどんタイミングがジャストになっていくあの感じはすごいです。斉藤清子さんや谷川清美さんなんかはほんとに休止以来初めてお見かけするような気がするのだけど、斉藤清子さんとかぜんっぜん変わらない。小原さんのイイ声爆弾も炸裂していたし。善さんは残念ながら映像のみのご出演でしたけど、それでも十分なインパクト。野仲さんのすっとぼけた感じもそのまんまで、懐かしかったです。阿南さんの微妙に報われない、切ない感じとかもね。甲本さんの役も、ほんっとに「罠」のムールそのまんまで、最後に必死で皆にご飯でも、って声をかけるとことかすげー切なかったなあ。最初にミドリの話に乗っかるのが甲本さんっていうのもすごく「らしい」。小林さんの、基本いい人なのに、ちょっとズレていて、そこがなんとも味があるっていうキャラもお馴染みですよね。

最後にひとり場をひっくり返す役を担ったのが近藤さん。でもほんと、うまいわ近藤さんは。三谷さんの信頼を感じます。って、一橋壮太郎の後釜ですものね。そしてこういう役は絶対に近藤さんに振られるよね(笑)いやでもすごかったです。あの場の制圧っぷりったらない。あれだけのキャストがいて、近藤さんにしかまったく目がいかなかった、あのシーンは。

和田の妻、という役で出てくださっていたのはショーマの西田薫さんで、主人の代理で、という自己紹介のときから観客はみんなそれが伊藤さんをさしていると察知していて、なのでいつ誰がそれに触れるのか、ということも気になりつつだったんですが、しかし感心したのは、そこで絶対にウェットに持って行かない三谷さんというか、あっさりと宮地さんにつっこませて、またキャストも皆あっけらかんと思い出を語らせるところにほとほと参った。だってその思い出があいつは不死身だったって、あーた、もうどうすればいいんだこっちは、骨壺に話しかけてる姿がおかしいし聞こえてくる声は死ぬほど懐かしいし、泣き笑いってああいうことをいうのか、っていう。この和田って名前は王様のレストランで伊藤さんのやった役名だよなあ、なんて思ったり。

相島さんのやった役は売れない役者って設定だったんだけど(正確に言うと、昔売れてた役者)、それも罠でそういう設定あったような。相島さんの役じゃなかったけど。しかし、ひとりだけ隠されたパワーが見つからなくて、寂しげに去ろうとする相島さん、そしてそれを止める宮地さんっていうのは、もうここは絶対、こういうところは絶対三谷さんは宮地さんに任せるよねっていうシュチュエーションで、宮地さんも本当に衰えを知らない、昔ながらの持ち味そのままでうれしかった。でもって、彼女の台詞は、もうまんま今回の発起人になってくれた相島さんへの言葉なのだ。彼がいなかったら私たちここにはいない。もうなんつーか、三谷さんの愛情をびしばしと感じる台詞だった。でもほんとにそうなんだよなあ。最後の文化祭として作られた記念パンフで、三谷さんと小森収さんとの対談が載っているんだけど、三谷さんは相島にほだされたと言っていて、それでまた心配になるのは去年相島さんが病気されたらしいんですよ。それで病み上がりの男にそんな熱いことを言われて断れないって。えーちょっとそんなー、お願いですから身体だけは大事にしてくださいようううう(泣)

相島さんがミドリにいう「大丈夫、なんか、大丈夫な気がする」って台詞、すごいよかった。あのときの相島さんの笑顔が忘れられない。

そしてやっぱり、西村雅彦はすごい。西村雅彦への、三谷さんの信頼度がすごい。あれはみんな夢だったのっていう問いかけに彼が応える場面、夢を見ることが出来ただけでもよかった、少なくとも俺は。この台詞を、西村さんは正面切って言った。サンシャインは基本的に、正面切って台詞を言うような芝居をしない。そういうあざとさは、三谷さんが避けてきたところだった。だけどこの台詞を西村さんは客席を見て、私たちに向かって言ったのだ、夢を見ることが出来ただけでもよかった、少なくとも俺は。

熱にうかされていただけ、夢をみていただけ、舞台なんてそんなものかもしれない。劇団なんてそんなものかもしれない。その板の上で何が出来ても、どんなすごいパワーがあっても、それは現実じゃない。でも夢を見ることが出来ただけでもよかった、私もそう思う。その夢のかけらを味わわせてもらえたことを幸せと思う。

劇団ってやっぱりすごいな。劇団の持つ「物語」の力って、やっぱりすごい。あれはなんなんでしょうね。なんでもない台詞、なんでもないシーンが、劇団の物語と重なることで、一生忘れられないシーンになり、台詞になる。劇団でしかできないことって、やっぱりあるんだなあ。

第二部ダイジェストでは宇宙防衛隊の制服に身を包んだ皆がなんちゃって宇宙人たちと戦うのだが、そこでは銀色の宇宙人スーツに身を包んだ福島三郎さんまでもが登場しておられました。カーテンコールでは、西村さんがとなりの相島さんと笑いながら、「お名残惜しいですが、(時間もないので)さっさと退場してください(笑)」という挨拶を。それでもやっぱりダブルはあって、最後は小林さんが挨拶。この最後の文化祭の一日のトリを、我々がつとめさせていただくことになりました。あと5ステージです。名残惜しいですが、消えていくこのシアタートップスという劇場と、再び集まった我々東京サンシャインボーイズを、どうか皆様の心にとめておいてください。途中かなりぐっときていたけど、最後まで落ち着いた声で、しっかりと挨拶をされていました。

こんなに長々と書いたけど、言いたかったことってこれで全部なのかな。もっとあった気がする。もっともっと思い出したことがあった気がする。でもやっぱり、最後にこれだけは言いたい。
相島さんありがとう。
伊藤さんもありがとう。
東京サンシャインボーイズのみんなにありがとう。
そして、
長い間私たちの観劇ライフを豊かなものにしてくれ、
数々の素晴らしい舞台を、夢を実現してきたシアタートップスに、
心から感謝を。
ありがとう。ほんとうに、ありがとうございました。