「狭き門より入れ」TEAM申

前回の「抜け穴」を見逃しているので「申×前川」のタッグで見るのは初見。「奇ッ怪」は見たけどあれは若干毛色が違いますし、前川さんのオリジナルという意味でもほぼ初見みたいなもんだった。評判は漏れ聞いていたので頭の中で予想していたところもあったんですけど、予想どおりな部分もあり、意外な部分もあり。

東京公演は千秋楽ですが、地方公演もあるので畳みますね。展開についてのばれありなのでご注意。

こういう、リアルではない枠組みを書く人は最近めっきり減ったよな、という感じはあり、自分、家族、リアル、という単語が横行しがちな中にあってこの前川さんの作品というのはちょっと引きつけられるものがありますね。しかし、日常とのパラレルワールド、もう一つの世界、そこからの使者・・・って昔どこかの劇団でそういうの沢山見た気がするなあとも思いました。模倣だとかそういうことではなくて、こういうのって時代はやっぱり巡るんだなあと思ったというか。

個人的には、その提示された「新しい世界」というものへの疑問符が作品の中にあったほうが多分、好きなんですよね。取捨選択した結果の、更新された「新しい世界」。それは本当に「いい世界」なのか?そっちの世界が「3年で終わりを迎えない」などと誰が言えるのか?登場人物に、あまりにも揺らぎがないのも気になったところ。というか、構造としても誰かが揺らいだほうが俄然面白くなると思う。終盤を天野の独白だけでもっていくのもアリですけれど、それにしては彼の「発見」が弱いんだよなあ。葉刈がぐらついたりすると、もっと違う絵が見えてくるような気もするんですけど。

っていろいろ言っておりますが、こういう作品が基本的に大好きであるからこそなわけで、そういう意味では「よくぞ出てきてくれた!」的な嬉しさもおおいにあります。イキウメの公演も見てみたいな。
キャスト・・・ふふふ、これはもう、手塚とおるに有り金全部もってかれても構わない的な感じですが何か(笑)まるで死をもたらす黒いカラスそのままに、音もなく近寄り、音もなく現れる岸という男。役としてのおいしさ、というのを差っぴいても、あの手塚さんの佇まいから発せられる不穏としかいえない空気、そしてしなやかな身のこなし。スツールにちょこんと止まる様も、一瞬でカウンターの上に現れる鮮やかさも、脱帽だ!倍率ドン、さらに倍だ!パンフレットでも役者の「身体性」みたいなことに触れてらっしゃいましたが、いや全く見事な「役者の身体」を見せてもらいました。身体性といえば浅野さんも非常に高い身体能力をお持ちなので、浅野さんの岸というのも面白そうかなとは思いました。

蔵はこの中でたったひとり、揺れまくる人物なので、そして終盤を成立させるか否かはほぼ、蔵の力にかかっているので、精神的にも大変だろうなあと思いますが、もうギリギリだ!というような中できっちり自分の責任を果たしていてさすがだなと思いました。弟の雄二とのシーンは、有川さんの素晴らしさもあって、すごくいいシーンになっていたなあと。ここがあるからこそ天野の心情の変化に繋がるわけですもんね。葉刈という人物は最後までつかめないなあという部分があったんですが、そもそも彼がなぜあんなにも天野に固執するのかとかね。だって葉刈が一番うれしそうだったのって天野に「資格がでた」時じゃなかったですか。柱になる云々よりも、そのことが重要だとでもいうような。葉刈にとっては天野こそは信じられる人間だったのかなあ。だから資格をもってほしいと思っていたのかしら。葉刈を演じる亀治郎さんは、現代劇初めてとは思えないというところもありますが、なによりすごく楽しんで演じてらしたんじゃないでしょうか。ご自身でもおっしゃっているけれど、こういう題材大好きですもんね。

土曜日のソワレを見たんですけど、開演して30分経ったぐらいのときだったかなあ、客席でかなり大きい呻き声のような、発作のような声が聞こえて、結局何だったのかわかんないんですけど(大丈夫ですか、と声をかける人やスタッフを呼びに行った人はいたんですが、そのあと運び出された様子はなかった)、そこで完全に客の集中力が途切れた、みたいなところがあったんですよね。舞台にも多分それは伝わっていて、声が聞こえたかどうかはともかく、客がこっちを見てない、というのは感じるところがあったんじゃないでしょうか。その一度拡散してしまった空気を呼び戻す、というのは並大抵のことではないですが、出演者はみなさん見事な集中力とテンションで場の空気を徐々に立て直していて、役者魂を見せてもらったなあと思いました。