「生きる技術は名作に学べ」

生きる技術は名作に学べ (ソフトバンク新書)

生きる技術は名作に学べ (ソフトバンク新書)

空中キャンプさん*1の本が発売になった!文学フリマのお知らせなどを見るにつけ指をくわえて見ていた地方民としては今回の書籍発売のニュースはほんとに嬉しかったです。流通ってすばらしい。ネットで買おうかなとも思ったけどなんとなく書店で買う、という楽しみも付け加えたかったので本屋さんで探しました。1店目であっさり見つかったよー、すごいすごい。

ご本人が著書を紹介されているエントリはこちら

誰もが名前を聞いたことはあるけれど、実際に読んだ人は意外と少ない、という名作文学を、空中キャンプさんが、あっ伊藤聡さんが独特の視線で読み解いていき、名作への水先案内人をつとめてくれる、という本です。タイトルの「生きる技術」というのを見るともっとハウツー的なものを想像するんだけれど、直接的なわかりやすいハウツーが書かれているわけではないんですよね、でも最後まで読むと、タイトルの意味もしっかり腑に落ちるというか。

この「名作文学に対してツッコミつつ楽しむ視線」というのは、たとえばみうらじゅんさんの「見仏記」なんかにも通じるところがあると思うんですけど、私も小さい頃「ギリシア神話物語」とか読みながら「ゼウスのおっさんはほんととんでもない」とかツッコミながら楽しく読んでいたことを思い出しました。そのツッコミ目線の面白さは「異邦人」とか「アンネの日記」で十二分に発揮されていて、自分がどちらも読んだことのある作品だったというのもあって倍楽しかったです。

アンネの日記」はそのツッコミ目線もさることながら、それが「どんな不幸の中にもある美しさ」をとらえて書かれた日記であると書かれていたことに胸をうたれた。「かわいそうだけじゃかわいそう」というタイトルのなんと秀逸なことか。

あとはハックルベリー・フィンの冒険の章もよかったな。ハックとジムがミシシッピーを下っていくその場面に、アメリカ文学における自由のイメージが鮮烈に象徴されている、という文章には唸った。そして、その展開から伊藤さんのトム・ソーヤーに対するdisっぷりには笑いました。言われてみればなるほど確かに。そういう意味ではトムこそ「アメリカ的人物」という気もしないでもない。鼻持ちならないやつだけど、でもなんだかんだと皆が憧れるようなところもあるとことかさ。

自分が読んだことのない本で、ええーーー!そういう話だったのーー!と衝撃だったのは「月と六ペンス」、そして「魔の山」です。月と六ペンスなんて、こんなかわいいタイトルであんな話なのか・・・!なんか「幸福な王子」的な、あとフランダースの犬の最終回みたいな、ああいうイメージだったよ!「魔の山」なんて、もうタイトルからして絶対いつ見ても波瀾万丈的な、そういう話だと思ってました。なんか「魔王」と混同してたよ私!

合間に、「貧乏」「暴力」「父親」「死」についての伊藤さんのコラムもあり、このいずれもが素晴らしい。blogでもそうだけれど、この本でも、伊藤さんの文章に私がすごく惹かれるのは、この人が「生活者」としての視線をしっかりと持っていらっしゃるところにあります。こうやって名作文学、というものを前にしても、そこにどれだけ破天荒な人生が描かれていたとしても、伊藤さんは淡々と日常をすごしていく生活者の視点から、時には共感の、時には憧れの目線で彼らを見ている。そうして結局のところ、こうして描かれ、語り継がれる名作の物語の数々が、淡々と繰り返しすぎていく日常の中の美しさに光をあててくれるはずだ、と。

普段本をよく読む、読まないに関わらずとても面白く読める本だと思います。とってもおすすめ。そしてこれが売れに売れて、もっと伊藤聡さんの本がたくさん世の中に流通しちゃえ!と願ってやみません!