「勧進帳」木ノ下歌舞伎

  • 京都芸術劇場春秋座特設客席 全席自由
  • 演出 杉原邦生 監修 木ノ下裕一

基本的には歌舞伎の「勧進帳」をなぞるところはもちろん、音楽の使い方やシンプルなセットが私が最初に木ノ下歌舞伎を観た「黒塚」のスタイルに近く、もとの舞台を知っているからこその面白さが存分に感じられる舞台でした。春秋座の舞台の部分に縦長の舞台とそれを挟む客席を配していて、その細長い舞台の上手と下手が関のあちらとこちらになるという構図。

富樫、弁慶、義経以外の3人は同じキャストがつとめるのも面白かったですが、個人的に唸ったのは弁慶をリー5世という在日外国人の方(本業はよしもとに所属する芸人さん)にキャスティングしていたこと。日本語は相当流暢ですが、ネイティブじゃないことはわかる。安宅の関に通りかかった弁慶の一行は富樫の詮議を受けるわけですが、義経一行が山伏に化けているという情報を掴んでいる富樫には、彼らは「山伏らしく」見えていない。その弁慶が勧進帳をすらすら読み上げ、あの山伏問答で丁々発止のやりとりを繰り広げる!ここ最高でした。まさか彼が(私たちでも理解の及ばないような)修験道のことどもを流暢に語ろうとは、というワンダー、弁慶が口を開くたびに我々も驚くし、それは富樫の驚きともシンクロしているんですよね。それに、弁慶というある種「異形の者」を感じさせることにも成功している。これは木ノ下歌舞伎ならではの面白い試みだし、この「勧進帳」をいっそうスリリングに見せるすばらしいアイデアだと思いました。

音楽の使い方も斬新で、個人的にはあのテクノポップに乗せたすり足でのダンス(立ち回り)はめちゃくちゃかっこいいな!と感嘆しました。さらにラップ調の音楽をまさにクライマックスで皆が歌う、という演出もあるのですが、「黒塚」の時もここぞ!というところでかかったJ-POPがものすごい効果をあげていて、こういうのはずっぱまるとほんとトラウマレベルで記憶に刻まれるものですが、なんというか、もう一声!というか、ちょっとボタンの掛け違えみたいないたたまれなさ成分が若干残ったのが惜しかった…何が違うのかと言われても正直はっきりとはわからないんですけど。やっぱり歌うって行為に遷移させるのを見せるのはなかなか一筋縄ではいかないもんなんだなーと。

富樫をやった坂口涼太郎さん、すらっとした細身の長身で姿勢が美しく、衣装もあいまってどこか鴉を思わせるような佇まい、ものすごく印象に残りました。最後の表情はまさに絶品でしたねえ(角度的に、これが見える客席と見えない客席ができてしまうのだが、先にご覧になった観劇仲間のアドバイスによりベストポジションで観劇できたのです)。

これを踏まえて見ると、歌舞伎の「勧進帳」もいっそう面白味が増しそう。今後の公演も楽しみです。