「陥没」

「東京月光魔曲」「黴菌」に続く、ケラさんの描く「昭和三部作」。「黴菌」を見逃していますので、三部を通したトータルの空気はわからないんですけど、「陥没」というタイトルと、「東京月光魔曲」を見たときの印象から想像した物語とはかなり違っていました。東京オリンピックを目前に控え、もっと先、もっと未来、そこにはなにか素晴らしいものがあるに違いない、そう誰もが信じていた頃を、かなり真正面にとらえて描いていたという印象です。最後のシーンなんかは、今この時代という視点からみると皮肉さが強く出そうな気がするのに、観ているときにはシニカルな「上から」の視線よりは切なさのようなものが強く感じられたのが印象的です。ケラさんが描く作品は、会話の緻密さや物語の構成の卓抜さはますます磨きがかかっているという感じですが、物語を見る視点は変化が感じられるというか…この三部作も「黴菌」から6年空きましたが、もし「黴菌」の翌年とかに書いていたらこういう視点の話にはなっていなかったんじゃないかと思います。

いつもながらに、芝居がすさまじくうまい面々を揃えていらっしゃいますが、なかなかここまで曲者の役が回ってくるのも最近めずらしい、生瀬さんのダメでイヤな男ぶりが冴えに冴えわたってましたね。ほんっとうまい。山内圭哉さんとのコンビも絶妙でした。でもって井上王子と瀬戸康史くんのきょうだいのかわゆさね!瀬戸くんほんと、観るたびに手数が増えて豊かな役者になっていってる印象。松岡茉優ちゃんは大好きな女優さんだし、あの年代の中では個人的にイチオシといっていいぐらいなんですが、このメンツの中に入るとどうしても手数の少なさ、球種の少なさが感じられてしまうところはありました。またちょっと一筋縄ではいかない役でもあったしねえ。

この作品も例にもれず、なかなかの長尺ではあったのですが、ほんとに不思議なほど観ている間時間の長さを感じさせない。短い芝居大好き、長い芝居はそれだけでちょっとやる気そがれる、みたいな部分も確実にあるのに、こんだけ濃密に時間を過ごさせてくれるんだから、そりゃ長くもなるわな!みたいな納得感が今回もありました。