「ジャコメッティ 最後の肖像」


スタンリー・トゥッチ監督。ジェフリー・ラッシュジャコメッティの晩年を演じています。90分の作品で、舞台もほぼジャコメッティのアトリエで進行しますし、なにか波乱万丈の物語が展開する!というタイプの作品ではもちろんなく、当時「フランスで最も成功していた芸術家」ジャコメッティが、彼の作品についての著作をものしたことのある作家ジェームス・ロードに肖像画のモデルを頼むことが発端です。1日だけ、遅くとも夕方には終わると言われたモデルの仕事、しかし、肖像画は一向に完成しない。

あらすじは予告編にあるとおりで、しかもほとんどそれで全部といってもいいぐらいですが、最初はこのモデルを頼まれた男性がなぜ途中で断って(彼はフライトを何度も変更しそれだけの損害も出している)アメリカに帰国しないのか、というのがよくわからないなと思っていたんですけど、実際映画を見たらなるほどと思いました。あれは帰れないですね。だって当代きっての芸術家、ただのスケッチがとんでもない高値で売れ、いかにも「ジャコメッティ的」なものに人々が群がる、モデルとなったジェームズ・ロードはそのジャコメッティの作品が好きで、本まで書いているのだから、そのジャコメッティが自分を描くという「ポートレイト」、完成を見たいと思うのは至極当然の心理ですよね。

描き上げては消され、描き上げては消される肖像画と、その中で繰り返されるひとつひとつの問答、ジャコメッティをとりまく女たちとのやりとり…あのフランス・ギャルの「JAZZ A GOGO」に乗せて新しい車でドライヴするシーンよかったな〜。でもって、カメラが肖像画を描くジャコメッティの目線になっているところは文字通りなめるようにジェームズ・ロード役のアーミー・ハマーさんの美しい造作が浮き彫りにされるわけで、いやほんと…見ながら照れたわ…(なぜお前が)。

ラストの展開はちょっとあっけない感じもしましたが、現実とはこういうもの、という小気味よさともいえるかな。ジャコメッティの弟との関係性もよかったです。