タイラー・ニルソンとマイケル・シュワルツの長編監督デビュー作。主演はシャイア・ラブーフ。シャイア・ラブーフはこれまでもいろいろ迷惑行為をやらかしては話題になっているんですけど、今作は撮影中に起こした事件で逮捕され、作品の公開自体が危ぶまれた…といういわくつき。しかし、なんとかここ日本でも公開してもらえました!
両親に見捨てられ、州の施設で要介護の老人たちと暮らすダウン症の青年ザックはプロレスラーに憧れている。古いプロレスのレッスンビデオを、それこそテープが擦り切れるくらい見ている。彼は文字通り着の身着のままで施設を抜け出し、その途上でひとりの男と出会う。その男は地元でどうしようもないトラブルを起こし、人目を避けてフロリダへの旅をする途中だった。「お尋ねもの」同志の、奇妙な南への旅がはじまる。
物語の要素としてはマンチェスター・バイ・ザ・シーやチョコレートドーナツと類似する部分がありますが、今作は全体にファニーな雰囲気が常にあって、それはザックが憧れているのがプロレスラーで、それはプロレスラーそのものがただ強い、ただ怖いだけじゃなく、どこかファニーな空気、愛される存在としての何かがあるからかもしれないなと思いました。「友達は自分で選べる家族」。いいセリフだな。老人ホームでのザックの「友達」もかっこよかった。タイラーはザックと出会ったその時から、必要があれば彼を助けるけれど、庇護する視線になっていないのが印象的だった。あんなに荒くれてやってはいけないことに手を出してしまうけど、ピーナッツバターを買った店の店主にショットガンのことを言われると、ちゃんと謝って見えないようにするのも、タイラーって人間の品をよく表していてよかったです。
ソルトウォーター・レッドネックの住んでいる場所を探し当てたときのタイラー、ザックの夢を壊したくない一心なのがむちゃくちゃ切なかったなー(だからこそそのあとの登場シーンでこっちまで浮かれちゃう)。タイラー、兄のことが彼のむちゃくちゃ重い軛になっていて、それが回想シーンで観客には示されるんだけど、私はもう初手から彼がおにいちゃんの帽子をボロボロになってもかぶり続けてるところでだめだったね…しかもおにいちゃん役がジョン・バーンサルだもん。良おにいちゃん案件すぎる!
それにしても、シャイア・ラブーフはやっぱり素晴らしい。いろいろと問題があってもこうして彼に活躍の場があるのは、もちろん恵まれた立場と環境にある(どれだけ才能があっても、一発で干される人だっている)というのもあるけど、どうしてもこの人とやりたいと思わせる演じ手としての力があるからなんだろうな。
この作品が主演俳優の迷惑行為でお蔵入りかも、となったとき、今作で共演しているダウン症のザック・ゴッサーゲンに「君はすでにスターだけど、ぼくにはこの映画がチャンスなんだ。なのにそれを台無しにした」と言われ、その言葉をきっかけにシャイアは更生を誓ってアルコール依存症の治療に取り組んだそうです。未来は決めれる。前にすすめ。良い映画でした。