「シャン・チー/テン・リングスの伝説」

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ブラック・ウィドウを皮切りに、MCUがスクリーンに帰ってきたぞー!ということで、シャン・チーとうとう公開でございます。このあとはエターナルズ、スパイディ新作と2021年残り3か月しかないのに怒涛のリリースラッシュ、のはず。無事にいけば。MCU初の東アジア系主人公、演じるのはシム・リウ。監督はデスティン・ダニエル・クレットン。

この先終盤の展開のみならずポストクレジットシーンにも言及してますので未見の方は回れ右でござるよ。

サンフランシスコで親友のケイティともどもホテルマンとして働くショーン。ある日突然、バスの中でショーンは怪しい集団に襲われる。「そのペンダントを寄越せ」。実は彼こそは「テン・リングス」の首領の息子だったのだ。幼少期より暗殺者として育てられたショーンはケイティとともになんとか難を逃れるが、ペンダントを奪われてしまう。もうひとつのペンダントをもつ妹の身に危機が及ぶことを察したショーンは香港に飛ぶが…というあらすじ。

冒頭の描き方がむちゃくちゃLotRっぽいんですよ、ってこれだから何を見てもLotRと思う輩は~~!って感じだけど、いやでもある超常的なアイテムを主軸にした伝承系の物語の基本を押さえているってことでもあると思う(LotRに限らず、古今東西そうした物語はたくさんあるし、だからこそLotRもそのフォーマットに則ってるともいえる)。その超常アイテム(テン・リングス)を手にしたウェンウー、つまりショーン(シャン・チー)の父は、貪欲に権力を求めるが、その最中にひとりの女性と出会い…というのが物語の冒頭に語られるわけですね。

物語をそこからスタートさせている以上、どうしても過去の回想を展開しないと話が進まない部分もあり、とはいえ個人的には回想シーンの多さはそこまで気にならなかった。気になったところがあるとすれば、幼少期から暗殺者としての育成のきっかけが母の死であったことは早々に判明するものの、主人公が組織を抜けてアメリカに渡るに至る描写がちとあっさりすぎたかなと。というのも、彼は妹を置いていっているわけなので(そしてクライマックスで、その過去の行為が反転するところが肝なので)それだけの「なにか」を描いた方がよかった。実際に暗殺を成し遂げたことにより、その行為に恐れをなして…というのはちょっと語らなすぎる。まだ成し遂げられず、のほうが説得力がある気がするが、それだと主人公の過去からの成長を描くのに足りないという判断だったのでしょうか。察するにそういうシーンも撮ってはいたけど、もろもろ意見があって引っ込めた、ってところなのかな。

もうひとつ気になったのはケイティがあそこでついていく必然性がちと弱い。ケイティというキャラクターを帯同させたい(帯同させないと展開として困る)けれど、恋愛を絡めたくはない、という落としどころなのかもだが、ただ押しかける(ついていく)のじゃなくて、もっと自然な巻き込まれを用意してほしかった気はする。

逆にうまいなと思ったのは、ウェンウーがあの村を襲いその向こうを目指そうとする動機に「妻の声が聴こえる」という現象をもってきたところ。さらに過去にはそうした襲来者があったことも語られ、それが敵の罠だと見てる方にはわかるが、ウェンウーにはそれがわからない(わかりたくない)。徹頭徹尾この父は子よりも妻を愛しているタイプであると描かれているのが効いているし、ヴィランにより世界の危機になる、のはいいけどじゃあそのヴィランの動機って何!?ってMCUに限らずどの大作映画も苦心するところだけど、そこに人生唯一のロマンスを持ってくるのが心憎い。

今までのよくよく見れば、いやよくよく見なくてもナンチャッテアジア、な描き方からは、一線を、画すぞ!という気合は、まず使用される言語に如実に表れてましたね。冒頭ひと言ふた言原語で話してあとはなぜかみんな英語が流暢!みたいなのではなく、登場人物らが英語をしゃべるときにはそれなりの必然性があるようにしていたし、演じる俳優さんにも目線が行き届いているなという感じだった。

サンフランシスコの街並みを疾走するバス車内でのアクションや、香港での地下(地上)闘技場、竹の足場を使ったビルの外壁アクションと多種多様なアクションシークエンスから、後半一転、妖と幻が織りなす不思議空間が出てくる趣向、こういう味変(味変言うな)してくるかー!と面白く新鮮だった。ターローの村の動物たちみんな最高にかわいいし…モーリスはもちろんだけど、あのガーディみたいな、獅子みたいなコ大好きっすわ…。

父との対決のあとシャン・チーが湖に沈んで、そこで守護者である龍と出会うところ、いやーときめいたな。むしょうにときめいた。いや、龍ってこれだよね。ドラゴンじゃないですよ。ドラゴンと龍って似て非なるどころか、よくよく考えてたら似てすらいないんじゃねーかって思う。あそこでシャン・チーやシャーリンを背に乗せてくれる龍、龍神さま、こんなに馴染む絵柄ねえ!って感じでしっくりきますもん。我々を助け導いてくれる存在としての龍、肌馴染みよすぎた。そういえばあの異界の化け物の親玉を弓で射貫くのも、LotRっぽいつーか、ホビットだよね!ある意味王道ってことですな!

テン・リングス自体がものすごく見栄えするアイテムなので、これを使ったアクションシーンがとにかく楽しかった。子どものころにみたら翌日腕輪10個つけちゃうやつ。

キャスト、シム・リウのシャン・チーが思った以上に朴訥気のいいお兄ちゃんふうで(MCUでいくとサムとかスコットとかの系譜)じっとり水分量の多い役作りじゃないのがすごく奏功してたとおもう。オークワフィナとのコンビもだからこそ活きたって感じがありましたね。アイアンマン3のマンダリンの展開をきっちり落としたのよかったし、まさかベン・キングズレーがここまでがっつり出てくれるとは!っていう。モーリスとのやりとりよかったなあ。でもって、トニー・レオンですよ。嗚呼トニー・レオン、あなたはどうしてトニー・レオンなの、と意味のないリフレインを叫んでしまうほどに魅力大爆発でしたね。憂いと色気と殺気と愛情が同時に見え隠れするってどんな役作りよ。お父ちゃんめっちゃ強!感もありつつ、いやでも、その裏には…?と常に観客にうかがわせる奥行きのある佇まい。いやはや最高でした。

エンドクレジットで出てくるキャプテンマーベルとバナー博士(そしてウォン)、「サーカスへようこそ」って、フェーズ3までのMCUだったらワクワク感が先にきたかもしれないけれど、指パッチンを経たあとの彼から発せられるその言葉の重さね。いやでも、まずは…ホテルカリフォルニアでも歌うか!