「愛に関するいくつかの断片」五反田団

  • アトリエヘリコプター 全席自由
  • 作・演出 前田司郎

一昨年拝見した五反田団の「いきしたい」が素晴らしかったので、今回の新作も是非拝見したいなと思い足を運んできました。アトリエヘリコプターちょう久しぶり。観劇後にツイッターで検索するまで、劇場で客入れをされていた方が歌人枡野浩一さんだと知らなくてビックリしました。2020年に上演予定だった作品がコロナ禍で中止(前田さん曰く、『稽古2日目に自分が発熱し、もうダメだと思った』)、今回満を持しての上演とのこと。

男女の関係を巡るやりとり、対話がベースですが、これが相手も場所もシームレスに展開していくのがすごく演劇的でよかった。「愛」というひとりの人物をめぐる描写と、「愛」という形にないものを語る描写が絶妙に交錯したりしなかったりしながら会話は続いていく。終盤はまさにその「愛」のゆくえをめぐっての駆け引きめいたサスペンス風味もあり、90分間があっという間。

俺はまだ愛を知らないから、愛を殺したの?全部、愛のせいにしたんですね…。「いきしたい」でもそうだったけど、ひとつの言葉がふたつのことを指しているように聞こえたり、それがまたひとつのものに収束したりというその押し引きの巧みさがすごい。こういうの、ただダブルミーニングを匂わせるだけでは観客の集中力が持ってかれるだけだと思うんだけど、興味を惹いたまま話はぐいぐい推進させ、これは、今のは、と観客がさっとそのものに触れる感触だけはしっかり与えてくれるという、プロの仕事やわあ…と感心しきり。これは上演台本読みたくなっちゃうやつですね。

中盤ぐらいで外の天気が豪雨となり、その雨の音がもろに会場に響いていたんだけど、これがまた絶妙な効果音というか。憲治が森田の家を訪ねた時の「雨だぜ」という台詞はアドリブだったのだろうか。

加奈を演じた鮎川桃果さんの佇まいというか、表情、しぐさ、すべてが「いる…」「知ってる…」というほどに実在感がすごく、マジで喫茶店で隣り合わせたOLの会話を小耳に挟んでいるようなリアルさがあったなー。夏子の「幸せになってほしいだけ」と言いながらすべての「愛」を否定するかのように、ものごとが壊れるように動いてしまうさまも、底知れなさと同時になんともリアルで印象に残りました。憲治と加奈が沈黙の我慢比べをする場面とかも、なんかこうすべてが「あるわ」「いるわ」の連打で、でもぜんぜん陳腐なやりとりになってない。会話の見せ方が終始工夫されててそこで笑いが出ることも多く、満席の劇場の雰囲気、降りしきる雨の音も相俟って豊かな観劇、豊かな時間だったなーと思います。