「ショウ・マスト・ゴー・オン」

東京サンシャインボーイズ時代の名作を28年ぶりに上演。私の中でも三谷幸喜ワークスベスト3を選べば必ず入る、大好きな作品です。近鉄小劇場で見た時、笑って笑って笑って、どうしようもなく胸がいっぱいになって涙が出てくる、っていうあの感覚を味わったことが忘れられません。

キャスト発表の時点で、劇団時代の作品を大きくリライトするというのは明らかだったので(そもそも出てくる人数が全然違う)、わりと覚悟を決めて観に行ったところはありました。実際にかなり書き換えられてましたしね。書き換えたのは、もちろんコンプライアンス的な側面もあると思うし、劇団時代はどうしても男女バランスが偏るので、そこを修正したって部分もあるでしょう。あともちろん、携帯電話というものの存在もそうですね。

人数を増やしたり、出番を増やしたり(例えば座長の宇沢はあんなに出てくる役ではない)という部分は、うまくいっているところもあれば、あまりはまっていないなーというところもあり。冒頭の見せ方は変えてくるだろうなと思ってたし、実際枠だけ残して(今からやるとこでーすの台詞とか)見せ方を変えたって感じだったけど、あれがラストシーンに繋がってるっていう構成がむちゃくちゃ好きだったので、惜しい気持ちもあったな。あとシンさんの一番好きな台詞もカットされてたし。

などなど、どうしても過去の亡霊が顔を出しちゃうオタクではありますが、じゃあ楽しめなかったかっていうと、むちゃくちゃ楽しかったんですよね。どうなるのかわかってて、同時にどこが違うのかを気にしちゃうって邪念があっても、やっぱり楽しかった。それは28年って歳月があって、こっちもいろんなものを受け止めることができるようになってるのも大きかったと思うし、なんといっても作品がね、本当によくできてる。

「ドレッサー」(三谷さんも演出されたことありますね)というロナルド・ハーウッドの舞台を拝見されたことがある方は、あれっこのシーン、どっかで観たぞ、と思われるかもしれませんが、このショウマストゴーオンは「ドレッサー」のある一場面に感銘を受けた三谷さんが、この場面だけで2時間書ける!とものした作品なんですよね。近年三谷さんが手がけた「大地」でも、収容所内でひと芝居を打つ場面がありますが、ああいう畳みかけと、それによって客をも飲み込むみたいな勢いがこの作品の肝であり、それ以外は何も残らないといってもいい。

今回は1幕50分、休憩を挟んで2幕が70分の尺ですが、驚いたのが1幕の書き込みの濃密さ!無駄が一切ない。2幕で発射されるすべての銃に丁寧に弾丸を詰めていく、それとは知らせずに、みたいな展開が流れるように描かれる。マジで50分が溶けたように感じられたもんなあ。改めて三谷さんの筆のうまさに感じ入りました。

今回、博多・京都公演では怪我で休演した小林隆さんの代わりに三谷さんが代役に立つという、舞台をご覧になった方なら「いやショウマストゴーオンを地で行き過ぎやん!」と思わざるを得ない事態になっており、それもこの作品らしいかなと。三谷さんの佐渡島父、けっこうな割合でドヤ顔がうざい役作りで笑いましたが、最後の「こんなにいい職場はない」って台詞だけむちゃうまかったのでなんかもう…好き!ってなりました。

「高崎名物だるま弁当だよ~!」「スコットランドには何がある!」「バーナムの森を動かすんだ」「ジジイはバテてたんじゃない。ペース配分してたんだ」などなど、ここだけ聞いても意味がわからないが、観終わった後には名セリフにしたくなるあれこれと再会できて、とても楽しかったです。