「逃げろ!芥川」文学座

ツイッターで公演情報を見て、脚本が畑澤聖悟さんだったので面白そうだなと思い、検索したらわりと近所で公演があると知ってチケット取りました。八尾市のプリズムホールって、めちゃくちゃ昔来たことあるよな…と自分の過去のブログを検索したら1991年に善人会議(当時)を観に来た時以来だったわ…30年以上前とかマジかよ…。

スペイン風邪が猛威をふるった時代、芥川龍之介と親友・菊池寛パンデミックからの逃避行を兼ねて長崎へと向かいますが、その列車の中ではなぜか芥川の作中に出てくる女性陣が次から次へと姿を現し…という筋書き。

作中人物が姿を現すという趣向なので、この点では芥川龍之介の作品に通暁している人ほど面白く観られるだろうなという感じはあったかな。

芥川と菊池寛というと、北村薫さんが「六の宮の姫君」のなかで彼らの交流を描写しており、中でも芥川が菊池寛に対して「わたしのヒーロー」という場面が鮮烈に思い出されますが、この劇中の中でもそうした空気を感じられるものだったと思います。どこかに生きにくさのようなものを抱えていた芥川にとって、たとえば知名度、たとえば世間からの評価、そうしたもので自分の先を行く友人に対し、そのコンプレックスも徹底的に「陽」の反応で受け止める菊池寛の存在は得難いものであったのではないでしょうか。晩年、芥川が菊池をたずね、しかし文藝春秋を創設し多忙をきわめていた菊池はその訪問に応えることができなかった、そのことを後悔する菊池の慟哭の場面は凄く印象に残りました。演じるおふたりが絶妙に芥川&菊池の風貌に寄せているのもなんというか、リアリティを増したなと。

面白かったのは、長崎に向かう列車の中で芥川と菊池がマスクを外す、外さないで口論する場面。もちろん、スペイン風邪に対しての反応なわけですが、いま、まさに客席側でもそうした葛藤って転がっていますよね。芥川は「長崎にスペイン風邪をはない」と自らに言い聞かせる場面もあり、こういうのってホント、直視せずに恐れる人ほど「見ないことにすればなかったことになる」みたいな方向に舵を切っちゃうの、あるある過ぎるな…と、思わず勝海舟の『今から古を見るのは、古から今を見るのと少しも変りはないサ』という名言を思い出したりしました。