「天號星」新感線

早乙女兄弟を迎えた新感線新作!いやーめちゃくちゃ面白かったです!!最近リピートってめったにしなくなってるんだけど、これはもう1回観てもいいなあ~~とか帰りながら考えてたら流れるようにチケット買っちゃってたね…だってまだぴあで買えたんだもん…。

裏稼業の総元締めと見せかけて、実は元締めの妻に代わってお飾りをやっている、顔はこわいが性根はただただ良い人な半兵衛を古田さんが、そして純粋に「人を斬ることが好き」なサイコパス系殺し屋の銀次を太一くんが演じていて、このふたりが天號の星と身代わり札と雷と巫女の力の奇跡的なマリアージュにより人格が入れ替わってしまう…というのが本筋で、そこにライバルの裏工作、奉行を軸にした悪だくみ、銀次の過去の因縁などが絡んでくるという趣向。

とにかく最初の30分ほど、太一くん演じる銀次の殺陣が圧倒的に「強く」描かれているので、これがどう転んでいくのか、果たしてただ良い人に見える古田が「ナメてたおっさんが最強」的な展開になるのか読めずにいたんですけど、人格の入れ替えによって、それまで鉄仮面ぶりしか拝めなかった銀次が葛藤と困惑と乗り越える壁を与えられた「主人公」のムーヴになるのがすごくうまい構成。役者を楽しみたい客としても、古ちんは古ちんでのんびり親父の顔と貫禄しかねえ手練れの殺し屋の顔が拝めるし、太一くんは最初と最後では同じ強さでも種類の違う強さ(と、それを手に入れる過程)が観られるという…しどころしかないやんけ!この役!思わず唸りましたね。

「人格の入れ替わり」という点以外は地に足ついた世界観なんだけど、この巫女の霊力とかそのあたりを下手に掘り下げず、「こういう事象が!あります!」な勢いで飲み込ませ、基本的に物語の進行を立ち回りに全振りしたのがまずよかった。展開がコンパクトでダレる場面がなく、「このふたりならそりゃ立ち回りが観たいよね」という観客の欲求にも応えてくれ、上演時間的にも「あれっもうこんなに経った?」な感覚で一気に観ることができたなあと。

二幕で一度、いったんふたりを元に戻す展開があるのもいいですね。雷がキーになってるのは観客もわかってるから、「これがまた戻ったらどうなるんだ」っていう緊張感も維持されるし、そこでもとに戻った銀次が、ピュアな人斬りではなくなり、欲という手垢がつき始めていることが朝吉に見透かされるのもいいアクセントだった。

何より一幕ラスト、銀次とかつてのライバルを鍛え上げようとする朝吉(おまえも大概イカれとんのう)が刀を合わせ、ふたりの刃がぶつかる瞬間に逆光、浮かび上がる「天號星」のタイトル、というあの場面がもう、キマりにキマりまくっていてマジでやばかった!!!「…くぁーーーーっこいいいいいいい!!!!」って声に出そうになっちゃったよ。なんかもう、あのキレ、あのタイミング、実写とは思えんつーかこれ漫画なら見開きだよね!!!っていう画の強さだったなあ…マジであの一瞬のためにもう1回観に行きたくなるもんなあ…。

半兵衛と銀次のカタがついて、そのあとに「乗り越えた」銀次(の顔をした半兵衛)と朝吉の最後の対決になるのも、大丈夫!わかってます!早乙女兄弟を呼んだ醍醐味は最後に存分にお見せします!という感じで、このご馳走を最後にもってくる構成もツボでした。役柄の対決としても面白いし、友貴くんと太一くんの対決としても面白い。ここまで役者を走らせておいて、さいごにいっちゃんしんどいやつお願いします!っていうこの感じ、今まで古田さんを始めとする新感線の芯をとった役者たちが通ってきた道よなあ。

池田成志パイセンと粟根さんという、悪代官側も安心安定の悪さ小物さ存分に発揮で隙がない。成志さん、ほんとうにあんたは嬉しい男だよ、この歳になってもあの「とりあえずやれることは全部やります」「ある隙間は全部埋めます」な小技で埋め尽くすあのテンション、マジ感服でしかない。さりげないところでも笑いを拾いに行く姿勢、ほんとリスペクトっす。山本千尋さんという、アクションに強みのあるキャストが入ったのも効いてたね。個人的には長物を振り回すような立ち回りももっと見てみたかった!

新感線が劇団員としての若手を育てなくなり、豪華な客演陣が中心になることが多い中で、脇役敵役二枚目三枚目と、この劇団との芝居でいろんな立場を経験した早乙女太一くんが、文字通りど真ん中、最後にタイトルを背負う役者として舞台の真ん中に立ってるのは、なんというかちょっと胸に迫るものがあったし、最後のキマりもそら恐ろしいくらいキマってて、いやーかっこいい、ほんとにあんたはかっこいい、ただただそのかっこよさにひれ伏すし、こういう感覚が新感線を見る醍醐味なんだよなあとしみじみ嬉しくなったりして。最後のカーテンコールもね、もう太一くんがトリで遜色ないし、古田さんが太一くんをあの座組のセンターに招き入れる場面を観てみたかったような、そんな気にさせられました。いやーもう1回観られるのうれしいな!!!