「謎の下宿人〜サンセット・アパート」

  • シアタードラマシティ  6列37番
  • 作 鈴木聡   演出 山田和也

昭和のレトロ漂う古風な下宿屋「日の出荘」にやってきた1人の青年。その下宿屋は日の出とは名ばかりの斜陽もいいとこ。大家はギャンブルに狂っているし古風すぎて下宿人は寄りつかないし、二人の娘は家を出たっきり。それでも不思議に明るさを失わない不思議な場所。そんなところにやってきた「謎」の下宿人。彼が来てから日の出荘の運勢は不思議な方向に転がりはじめる・・・。

ラッパ屋鈴木さんの脚本もの、実は初めて。なんともほんわかと、しかしちょっぴり寂しい、いい話でした。綺麗事過ぎもせず、大団円過ぎもせず、かといって前向きな光はちゃんとあり。しっかりオチをつけるというよりも、彼らの今後をちょっとみてみたくなるような、そんな芝居でしたねえ。セットや小道具の凝りに凝った感じも○。それになんと言っても脇を固めた役者さん達がうますぎる!ここまで「巧者」が揃った舞台もそうそうないのではないかなあ。平田&松金夫妻は言わずもがな、谷川&羽場コンビ、渡辺&三鴨コンビ、そして力技混みの阿南さんと相変わらずハスキーボイスが可愛い佐藤さん。みなさん素晴らしい安定感でした。個人的に今回の泣きツボは松金さんと阿南さんかな。またもや阿南さんに泣かされている私だ。ミスター泣き笑いという言葉をプレゼントしたいくらい、あの人の泣き笑いシーンはくらいます。松金さんは終始きりっとした上手さもさることながら、威勢のいい下宿屋のおばちゃん、ってだけでなくていろんなものや人への深い愛情が節々に感じられて凄いなあと。

脇の揃いも揃ったり、な好きな役者さん達を見るのも勿論楽しみだったんですが、吾郎ちゃんの舞台を見るのが実は初めてで、結構ドキドキしたりしました(笑)流石に今まで何本も舞台でセンター張っているだけあって、立ち方も良いし華はあるし、それになんと言っても声が良い!声の良さはかなり前評判でも聞いていたんですけど、本当に良い声だ。気になったのはちょっとした仕草や動きに「こなれてない感」があったことかなあ。手を腰に当てたりする仕草が「当ててます」って感じになっちゃう。不自然とまではいかないけどちょっと違和感、みたいな。まあそれも吾郎ちゃんの味といえば味か(笑)

松金さんと吾郎ちゃんが二人で話すシーンはこの芝居の肝で、それまではどれだけ存在が浮いていようとテンポがずれていようと大金を持ち出してこようと「謎」の下宿人だから、としか語られていなかった町田君の、「謎」が「謎」じゃなくなるわけで。1200万もの大金をどうして惜しげもなく出せるのか、どうしてこんな下宿にそこまで愛着があるのか、それが成立するかどうかはこの二人のシーンの説得力にかかっていると思うんですよ。このシーン、吾郎ちゃんの声の良さに助けられているとは思うんだけど、「ふわふわとして生きている実感がなかった」というあたり、もう少し説得力持たせられるともっとイイのになあとちょっと思いました。演出的にもさらっとしすぎかな・・・とか。

しかしまあ3時間と結構な長丁場で、しかも単調になりがちな群像劇なのにあっという間に時間が過ぎたなあ。生で間近で見る吾郎ちゃんはやっぱり凄く素敵だったし。役者さんの巧さも堪能させてもらったし。良い舞台でした。