「ファウストの悲劇」

初日。ファウスト、といえばゲーテ!という感じですがこれはゲーテではなくマーロウというシェイクスピアと同世代の劇作家が書いたもの。ファウストメフィストフェレス、単語はよく知ってるしなんとなく結末もわかってる、なのでネタバレっていうのは特にない、ないんですが畳みます!だって、長いから!

初日前に「演出プラン変わったからベンチシートになるよん」というお知らせはがきを受け取ってまして、えっどうせ長いのに(失礼)、お尻痛くなったらヤダな、とか思ったんですけど、実際は背もたれもあるしそれほどきつい、というわけではなくてよかった。いやでも腰痛持ちには厳しいかも。それでなぜベンチシートに変わったかというと、舞台の床下をまるっと見せているからなんですね。なんでまるっと見せているかというと、背面一面の鏡(出た)はマジックミラーになっていて、その後ろは和物の芝居一座の楽屋になっているわけです。つまり、この芝居はどこかの一座の打つ芝居ですよ、という入れ子構造。だから幕も定式幕がかかってる。

思うに、例えば天使や悪魔が耳元で囁くとかいうシーンをベタにやると、それはほんとになんの工夫もない、今時そんなのありか、的な安っぽさに陥りがちだと思うんですが、そこを入れ子にしたことでワンクッションおける、「ベタにやる、という芝居です」みたいなね。それから、どうしても「信仰」というものと深く関わる話なので、そのあたりの溝を埋める効果も狙ってるのかなあなどと思いつつ。地面から悪魔は飛び出る、火花は出る、宙乗りもこれでもか!と使う、そういった様々なことが全て、床下を見せることで陳腐でもベタでもない何かに見える、というあたりはさすがです。

舞台裏は和風なんだけど、登場人物は皆さんかっちりと洋風の衣装をお召し。袖に引っ込んだあとその裏で着替えたり談笑してたりというのも見られたりして。

ファウストは己の肉体と魂を引き換えにメフィストと契約を交わし、我が世の春とその期限付きの自由を楽しむわけですが、途中で何度も転落の道をはずれ信仰を取り戻そうと迷いを見せるところが印象的。地獄などないと言いながら、最後の瞬間には自分の魂が救済され得ぬことを嘆く。地獄なんてない、神などいないということを信じ切ることは彼には最後までできなかった、そのあたりはまさに「ファウストの悲劇」そのものという感じでした。

萬斎さんは最後の嘆きも見せ場なんですが、やっぱり身体を使って見せるシーンで独特の輝きを見せるところがすごい。萬斎さんも後ろの楽屋に時々いたりして見つけるの楽しかったな。弟子役の白井さんは後半ある意味コスプレ大会みたくなってましたね(笑)長塚さんは個人的にはもっと見たかった!いや、短い出番できっちり仕事を果たしていたとは思いますけれど。木場さんはいつ見てもさすがの安定感。あとたかお鷹さんのうまさも目を引きました。

いやしかし。
もう。
そんなことをつらつら書きながら。
正直私はこの舞台でほぼ勝村さんしか見てませんごめんなさい。

ファウスト博士の衣装が黒のたっぷりした学者風のマントでこれもステキだったんですが、メフィスト(つまり勝村さん)の衣装を見たとき私はのけぞった。白。全身白。白のシャツに白のベスト、そして白のコートだおまえこれどうだどうなんだああああ!えー!悪魔なのに!メフィストなのに!絶対黒でくると思ってたのに!(貧困な発想乙)コリオレイナスの時に使ったあの台詞をもう一度使っていいんですか!?(いいんです!)

白いのが
勝つわ・・・!
 (無駄に2行)(ララァはかしこいな!)

そこから先というものあれですよ、もちろんメフィストですから、ファウストを誘惑するわけですよ悪の道に。耳元で囁く。背後から抱きしめる。ファウストが座った椅子の手すりに傲然と立ってファウストに見下ろす。「お前の魂を手に入れるためならなんだってやるさ」。血の証文を書かせてるあたりから「これはもしや」と思っていたが極めつけはこれだ、証文を書いて自分のしたことの恐ろしさにふるえるファウストに「少し気晴らしが必要だな」(この時の手の動きがもう超絶かっこよくてあばばあばば)それで何が出てくるかと思えば

単語です。
あっ違ったタンゴです。
タンゴ・アルゼンチーナです。
ラ・クンパルシータです。
萬斎さんが黒のタキシード、勝村さんが白のタキシードです。
ご丁寧に萬斎さん踊る前赤い振り袖羽織ってます。
それで踊る。二人で。大人のタンゴを。

・・・緊急速報!緊急速報!蜷川幸雄の眠れる乙女心が再び動き出した模様!総員配置につけ!繰り返す!総員配置につけ!(冗談です)

まーこの時の勝村さんの、白いタキシードで萬斎さんを抱えて踊るエロさといったらあんたもう、エロが大洪水起こしてたわ主に私のまわりで。ほんとにねえ、髪型だってよく見たら変だし(だって坊ちゃん刈り)、オーケンもかくや、なひび割れメイクが施されているにも関わらず、あのかっこよさはなんなのかと。あ、この先私かっこいいしか言ってませんので別にもういいわかったという方はここで読むのをやめて頂いて一向に構いません!

しかしベンチシートセンターブロック2列目やばい。マジでやばい。もう勝村さん目の前にもほどがあるもの。一列目の目の前で延々芝居したりするからね。もう、そこ!もう、目の前!痛い子ってわかってて言うけど、もう絶対目が合ったもん!でもってメフィストなんて基本冷笑キャラですから

邪悪笑み炸裂ハンパない。

勝村さん独特の、かたほうの唇のはしをすこしゆがめるような笑みがデフォルトですよ奥さん私見てる間中ハンカチ口に当ててたけど、それは咳とか埃とかそんな理由じゃなく

多分リアルでヨダレ垂れる

と思ったからとかとてもそんなこと言えない。あと私の中の眠れる獅子が目を覚ますどころか雄叫びをあげそうになったのが、7つの原罪を見せていくところ。余談だけど、って違うこれが本題だっつーの、このシーンの流れが「え?井上ひさし?」と思わせるほどに完全に似たテイストだった。その他にもそういう風に感じたところあったけど、ここが特に顕著でしたね。
それで雄叫びに戻るけど、そのシーンで上手の通路に勝村さん、下手の通路に萬斎さんが座って、舞台上の「原罪」役を眺める(時にはヤジを飛ばす)シーンがあるんですが、その時の、通路の階段にもたれて舞台を見る勝村さんの顔with若干気の緩んだ笑み。これもう瀕死。顔は舞台の方見てたけど多分私の右目ものすごく右折してたと思う。うんごめん。反省はしていない。あとついでに懺悔するけど楽屋裏で白い衣装に着替えるときにそっちをガン見して「黒か・・・」(何がって聞かないで)とか思うような娘に育ちましたお母さんごめんなさい!

でもほんと勝村さん八面六臂の大活躍でしたよ・・・!。笑いとシリアスなシーンの手綱もがっつり握ってらっしゃったし、初日ということもあって台詞があやしいキャストも散見されるなか、きちんと「できあがった芝居」を見せてくださってたのはさすがでした。客の空気を読むのもうまい!

最後にファウストを連れて行くべく地下から現れる(スモークと共に。できすぎ)白い衣装のメフィストが、ゆっくりファウストに手をさしのべ、その手を取ったファウストを胸に抱きながら哄笑するメフィスト。あーもう満腹ですってば。

満腹ですってば、と思っていたのに、狂言廻しの木場さんが最後の台詞を言って、その幕を閉めるのがメフィストだったりするんですけど、幕を閉めた後勝村さん、客席に向かって手を伸ばして、十字を切るような仕草(違うかもしれないけど、劇中で法王がそんな仕草をしてきた気がした)をして、それで、それで、

投げキスして去っていきました(実話です)(そりゃそうだよ)。

いいえ、あの方は何も盗らなかったわ!いや、ヤツはとんでもないものを盗んでいきました。あなたの心です!ってこういうときに使うんだっけ?違う?投げキスした瞬間私ほんとに椅子からずり落ちそうになりました(だってほらベンチシートだもの)。多分ちょっと変な声出たな・・・ひぎゃ!とか・・・ほんとごめんなさいね・・・

カーテンコール、これはけっして私の勘違いとか思い込みではなく、ほんとにひときわ大きい拍手が勝村さんに送られててめっちゃ嬉しかったなー。一回客電ついたけど拍手やまず、もう1回出て来たときの勝村さんと萬斎さんのアイコンタクトよかった。初日ってやっぱり独特の緊張感あるし、なんとなく皆さんに安堵の表情が見えたのもよかったな。勝村さんもなんとなくぐっときている表情に見えたり・・・いやそれ私の妄想か・・・もうなんか全てが(ある意味)夢みたいでよくわかりません。とにかくカーテンコールの時の勝村さんの位置が私のド正面だったことは末代までの誇りとせよとばっちゃが言ってました。

そんなこんなでこれ最後まで読んでいる人がいるんでしょうか、いたとしたらそんなあなたは勝村さん大好きなはず、だったらもうコクーン行くしかない!特にブラック勝村大好物な方にはぐりぐりの二重丸でおすすめです!全然作品の感想になってなくてごめんなさい、って今さら謝っても遅い!