「十九歳のジェイコブ」

  • 新国立劇場小劇場 B1列18番
  • 台本 松井周 演出 松本雄吉

中上健次の同名小説がを原作とする舞台。こういう、小説の舞台化、みたいなときに、原作を予習として読んでいくってことはしないのですが、これは読んでいけばよかったなーと思ったなー。空間と時制がポンポンと自在に飛ぶんですが、おそらくこれは文章として読んだ場合には、その展開は気にならないだろうなと思えたところがあったんですよね。見えてないものが見えていたり、見えているものが見えないものであったりっていうことが成立するのが舞台の良さでもあるんですが、だからこそ余計に「これは現実?それとも他の誰かの現実?」っていうので戸惑っちゃった部分もありました。

ジャズ喫茶に入り浸り、ドラッグとセックスに溺れる19歳の若者。自分が「なにものか」もしくは「なにものでもないのか」という焦燥が19歳という中途半端な時間をじりじりと焦がしていくようで、それを覆う菊地さんの音楽が心地よかったです。

主人公ジェイコブの友人ユキの人物造形がすごくツボでした。いや正直、ユキの物語に引っ張られるあまり、終盤のジェイコブが自分の出自と向かいあうあたりでは若干集中力が切れていたわたしだ。「持てるもの」として生まれついたからこそ、その生まれながらの不平等性に敏感にならざるを得ず、己の潔癖さゆえに己自身を許せないでいるユキ。あの足の悪い姉のことを語る口調、その姉のことを「ブクブクと醜く太っているよ」と語る口調、あの「写真」の真実が語られるところ、よかったなー。松下洸平さん、はまり役だったと思います。

座席が前方のサイドブロックだったので、あーこれはもう少し後ろにさがって見たかったなーと。あの狭い小劇場の空間をものともせず、高さをバンバンつかっていく演出も多くて、後方センターの方がそういった醍醐味は味わえたんじゃないかなあ。あの、バックに文字が洪水のように溢れる演出、ただ文字が流れるっていうだけだとあまり好きな見せ方ではないんだけど、舞台が「言葉」で覆われるように見せていくところが圧巻でした。

そうそう、西牟田さんが出てるって知らなくて、出てきた時思わず飛び上がりそうになりました。お久しゅうございます…!お会いできてうれしかった!またぜひ舞台で拝見したい!!