「江戸は燃えているか」

TOKIOの松岡くんと獅童さんを迎え、新橋演舞場に三谷さんが初登場。物語は三谷さんが大大大好きな勝海舟の、これまた大大大好きな江戸城無血開城のエピソードをメインにして、勝海舟邸での西郷を迎えてのドタバタを描いています。

三谷さんのいいところとわるいところがきっちりでたなーというのが最初の感想かな~。なにしろ、題材は三谷さんにも思い入れのある歴史的事実で、そこの裏を自在に描くというのだから人物配置などのうまさはお手の物だし、そもそもひとつの「誤解」をどんどんふくらませて転がしていく喜劇は三谷さん自家薬籠中のものというところですよね。冷静に考えれば「いやそんなことないでしょ」と思うようなすれ違いも、微妙に「ありえる」線で成立させていくところはさすがです。前半と後半で「だます」相手が反転するのもよい構成。

わるいところ、というのはまず演出面で花道を具体的な「外へ続く通路」としてしまったこと。あれじゃただのセットの一部だし、実際あの邸宅から出ない登場人物は花道を使わないわけで、あの構造の持つ魅力を半分も活かせてないと思うんですよね。これじゃ新橋演舞場でやる意味ないのでは…と思ってしまいます。

もうひとつは、どれだけすれ違いのドタバタで爆笑していても、見ている方には笑いながら少しずつある種の鬱憤がたまっているわけで、それは「はやく真実に気がついてくれ、だれか!」というものなんですよね。だからこそ、いよいよ西郷がその真の顔を見せ、それと渡り合えるのは本物の安房守だけ…!となったその瞬間は最高のカタルシスを味わえる場面であるわけです。だからもう、勝と西郷が真に顔を合わせたその瞬間からは一気に畳みかけてほしい。あそこで勝の妻の空気の読めないひとことはまったくもって芝居の醍醐味を削ぎます。これは三谷さんの悪い癖が出たなあという印象でした。

聖子さん、さすがの緩急で場を作るのも笑いをさらうのもめちゃくちゃ自然。大きい劇場での場数を感じる。田中圭さんはこの手の三谷さんの舞台でもっともしどころのある役(前半後半のいずれも「状況を承知」した役でありつつ、ことの首謀者ではない)をイキイキと演じてらしてとてもよかったです。ただの巻き込まれ型というよりは、彼なりの意思と過去を底に感じさせるキャラクターを見事に立ち上げてらしたな~と思いました。松岡茉優さん、わたしホントに大好きなんですけど、しかし舞台で見るとなんというか…もう一声つーか、所作に若干の不満が残る。ちょっとバタバタしすぎというか…着物を着ているひとの動きではないんですよね。そういうところ大事だと思うヨー。獅童さんはいわば自分のホームグラウンドで、今までにも縁のあった三谷脚本で、時代劇で、とこれで俺が輝かなかったらウソだ!とでもいうような輝きぶりでした。楽しそうだったよ。よかった、よかったよ。

最後の展開はえっ?あっそうくる?と思ったし今までの空気とのバランスが~とも思ったんだけど、ただなんつーか、ああいう展開自体はそれほどきらいじゃないんですよね。ただもうちょっと見せ方がな~!という気はする。そしてあの展開に持っていくならそのタネをできれば笑いにまぶした形で蒔いておいてもらえるとよりゾっとできてよいのにな、という気はしました。

全然関係ないんですけど、セットの雰囲気がねえ、彦馬がゆくになんか似てるような気もしてしまって、懐かしさにちょっと浸ってしまいましたよ!