「ゲゲゲの先生へ」

タイトルからして「水木しげる先生そのひと」にスポットをあてた作品になるのかしらんと予想していたんですが、これがかすりもしなかったので笑いました。ゲゲゲの先生とその先生が生み出した世界にシンパシーを覚えないではいられない創作者が、これがじぶんにとっての「ふしぎ」ですと書いたラブレター、いや論文?のような趣だった。

闇のあるところでないと人間に魂が入らない。なんだか「オニの息吹のかかるところがないとこの世はダメな気がする」って台詞思い出しちゃいますね(その台詞ほんと大好きだなおまい)。前川さんは私たちの目に見えるもの、手に届くものから「すこし遠い」ものを好んで書いてきた作家だと思いますが、水木作品との親和性というか、科学と真逆の位置にある何かを作品として残してきたという点では相通ずるところがあるんだなあと思いました。

佐々木蔵之介さんは根津という、あきらかにねずみ男をフューチャーしたキャラクターで、ほんと自由闊達にやっていてよかった。そうなんだよねー蔵は私の中では「二枚目枠」と「妖怪枠」があるとしたら間違いない妖怪枠に入るひと…だって轟天寺ヨシオだもん…(その名前で呼んでやるなよ)。「当たり前だろ。おれ詐欺師よ?」と軽妙にすごんでみせるところ、めっちゃかっこよかったなー。ああいう蔵もっと観たい観たい。

妖怪?精霊?元神?呼び名はさまざま人間が好き勝手につけますが、そのこの世とあの世の端境にいるようなキャラクターを演じる女性陣がおしなべてすばらしく、この作品の世界観を成立させることができたかなり大きな理由になっていると思いました。白石加代子さんはそりゃハマるだろうよ!と予想はしていたけど、その予想を軽々超えてくるし、池谷のぶえさんはいつ観ても本当にいい仕事しかしてないし、松雪さんのひんやりとした温度さえ感じさせる佇まいの美しさも印象的でした。ほんとキャスティングの妙!キャスティングの妙といえば「山田」役に手塚とおるさんなのがもう…ズルい。あの人の舞台の上での自由度の高さたるや。

イキウメの面々もよかった、根津の子どもの頃を浜田くんがやってたんだけど、すげえ、わかる!ここつながってる!感があって楽しかったです。大窪くんも相変わらず年齢不詳な…「三太」と「サンタ」のギャグが妙にツボにはいってしまった私だ。

私はこういった「この世ならざるもの」への感覚がないというか、つまるところある、ないみたいな二元論で物事をとらえちゃうツマラナイ大人で、だからこそなのかこういう世界を覗かせてくれる作品が好きなので、そういう作品を作るひとの根源を覗けたようで楽しい時間でした。