「jamゴールドブレンド」 山の手事情社

山の手事情社。かつて第三舞台の朝日83で少年役をやった安田雅弘さんの主宰する劇団であり、池田成志さんがかつて在籍していた劇団でもあり。第三舞台マニアの私としては、絶対にかすっていなければいけないはずなのだが・・・なんと初見!だって大阪来てくれないんだもの!しかし無理矢理空いている時間にこれを強行突破で見に行ったのは第三絡みの理由ではなくて、今回ゲストで出演される山の手OBの方見たさだったんです。とある公演でその実力、というかキチガイぶりに惚れ込んでしまった、その名も誰あろう清水宏さん。

20周年記念公演ということで、過去の作品の中からリクエストの多かったものを今回3本上演。上演といってもこの「jamゴールドブレンド」は山の手事情社特有の俳優養成システム「山の手メソッド」を紹介するもの。だからまあ、言ってみれば稽古場風景を若干エンタメ化して見せているようなもの、だと思う。いくつか項目があるので、その項目ごとに。

・落語
落語家の柳家花緑さんが、配られたペラ紙パンフに書かれた十席の中からお客が自由にお題を選んでその場で一席聞かせてくれる、というもの。一度やったネタは除外されていくので毎回ネタは違うはずです。私が見た回は「寿限無」。うーんネタをしってるやつだったのがちょっと残念。演劇部員の人はこの寿限無を早口言葉で練習させられるがそこはさすが本業、といった感じであった。個人的には平林が聞いてみたかった。

・歩行・二拍子
歩行、というのはその人物を演じる上で非常に重要なキー項目、といった安田さんの解説のあと、様々な「歩行」のシーンを。スローあり、ダンスめいたものあり、ストップモーションあり、なるほど、一口に歩行といっても様々だなあ。そしてそれを表現する役者の身体が非常に訓練されていてうっとり。二拍子はうずくまった姿勢から拍手ひとつで立ち上がる、そのリズムの中に色々な演出からの指示が飛ぶもの。この運動自体は「丹田を一番早く上下させる運動」なのだそうだ。うずくまり、立ち上がり、やがて演出から「怒り!」「哀しみ!」と声が飛ぶ。すると役者はその感情を表現した形でストップモーションになるわけだ。
あれ、これどこかで見ましたよ。
そうです、あれです、朝日91の「小劇場病」!!!安田さんご自身もちょっと引き気味の観客に向かって説明。「パッと見こわい!と思われるでしょうが、私も昔大学に入って稽古場で諸先輩方がこれをやっているのを見たとき『やめよう』と思いました。『こんな事で人間の尊厳を喪ってはいけない』」。もう大笑い。

清水宏のフリーエチュード
その中に清水宏さんがゆっくりと客席から登場。安田さんの代わりに役者達に指示を与えます。だんだんおかしな事になっていく役者達。しまいに「ゲロ!」そして「ゲロを表現するんじゃないんだよお!ゲロになれ!ゲロの中の、なんか、わけの分からないものになれ!」
あーあーあーまるっきり小劇場病だあ!もうひとりで大喜び。大爆笑。そして舞台の上にいる役者達に清水さんが口立てでまったく意味のわからない芝居をものすごいイキオイでつけていく。本当に意味はわからない。そして信じられないぐらいのテンションの高さだ!いやすごい。この人はすごい!想像以上の見事なキチガイっぷり(絶賛してます)に思わず目がハートになる。この人を今まで知らなかった自分を恥じたね。いるもんだ、すごい人が世の中には。そんな、本当なら誰にもついていけないようなテンションの清水さんに必死で食らいついていく山の手の役者さん達も素敵だ。頭の中に「なんでこんなことを?」の疑問符がまったくない。言われたからやる。なんてシンプル。だからこその思い切り。そしてさんざんかき回した挙げ句「さ、ここまで通すぞ!」えええ、覚えてるんですかあ?でも覚えてるんだ、みんなほんとに。信じられないよ!普通の脚本の台詞覚える方が100倍簡単な気がする。見事に通して、拍手喝采

ジャムセッション
清水さんも参加して、バトルロワイアル型フリーエチュードともいうべき「ジャムセッション」へ。その場でテーマを出し合っていき、瞬時にそのエチュードに入る。膨らまないとわかったら速攻で次の案。はまると面白いのだが、なかなか瞬間的に面白いものというのは出てきにくい。しかし10分という限られた時間の中でも何個かは優れたアイデアが出てくるもので、私が見た日の中でうまく転がってるなと思ったのは「ホラー家族」(普通のことでも全てがホラー口調、「キャーーー!!パンが、パンが焼けてるわああーーーー!!」とか)と、「思わせぶりなことしか言わないヤクザの会合」ってやつ。前者はアイデアが秀逸だったし、後者はネタ自体がというより、皆が思わせぶりなことを言い合う中ひとりノックして舞台に登場し「・・・素通りするよ!」と言いきった女優さんの切れ味に千点、という感じ。この日のジャムセッションでもっとも沸点を上げたのは彼女だったろうと思う。そう考えると、笑いを取るというか、舞台で場をさらう、っていうのはまさに一瞬のセンスのきらめきなんだなと思わせて興味深い。

・ものまね
有名人の物真似じゃなくて、自分の身近にいる人の物真似。私が見たのは「医者」と「新聞勧誘員」。どちらも見事!そうそう、いるいる、こんな人・・・と思わせつつ、「ちょっとおかしい」ところをうまく拡大して見せてくれている感じ。個人的にはこの間面白い眼医者にかかったばっかりだったので、「どうなんだろ」を連呼し挙げ句他の医者への紹介状を書く医者がすごく面白かったです。

・ショートストーリーズ
休憩前にお題を客から募り、4チームに別れて寸劇を仕立てるコーナー。今日のお題は「運動会・拉致・おじいちゃんの耳毛」。4チームの中では「拉致」されたかもしれない、行方不明の弟を待ち続ける家族が、実は・・・というネタをやった最後のグループ。「拉致」を真っ正面からとるのが難しい!と考えたのか「埒があかない」でとっていたのが2グループ続いてしまったのはちょっと惜しかったかなあと思った。しかし10分間という短い時間で筋立て、役割を決め、シチュエーションだけでちゃんと物語を作っていける即応力は見事。

・ルパム
山の手オリジナルダンス、だそう。うわーすっごくいい!!もちろん役者さんのちゃんと鍛えられた体で表現するから良い、ってのもあるんだと思うけど何より素晴らしく楽しそうなのが良い!ほんとみんなの表情がすごく素敵だった。昔川崎悦子さんが役者さん達のダンスを自分は「動き」と呼んでる、その中で「観客に何かを伝えること」を一番大事に考えてる、と言っていたけど、このルパムもぐっとこちらに訴えかけるものがありました。

私は前々から言っているとおり、舞台と舞台の上に立つ役者にもっとも求めているものは「圧倒的」であることなんですね。「とても私には出来ない」「これがプロだ」と思わせてくれること。それがありさえすれば他のことは一切求めないと言ってもいい。でも、この山の手見てるとね、そうではない感情が湧いてきたんですよ。それは「やってみたい」という感情。ちょっと今までの自分からは考えられないことですよ!「やってみたい」と思えるようなものはダメ、だったはずなのにー。でもすごく楽しそうなんだ、こんな風に「エンゲキ」を始められてたらすてきだろうなって思わず思ってしまう。いやあもし、私高校生の時とかに山の手見ちゃってたらトチ狂っちゃってたかもしれないなあ。恐るべし、山の手事情社