「叔母との旅」

母親の葬儀で久しぶりに再会した叔母。自由奔放で「常識」なんていうものを蚊帳の外に追いやっているようなその行動に、次第に影響されていく主人公ヘンリー。というわけでこれまた奇しくも「ハーパー・リーガン」に引き続き主人公が今までの自分の枠から「一歩踏み出す」ことを描いた作品。ほんとにこういうのってリンクするときあるんだよなあ。

一人の役者が複数の役を演じる、これはまったく珍しいことではない。しかし、一人の役を複数の役者が演じる、というのはどう?これはもうその作劇だけで興味を惹くし、うまい役者が演じればそれだけで劇的なシーンになることが約束されているようなもんじゃないですか。それに挑むのが浅野和之段田安則高橋克実鈴木浩介という組み合わせなんですから、なんでもないシーンでも、いやなんでもないシーンこそが見せ場の連続といった感じでした。

逆に言うと、その作劇方法に目が行くあまり、劇中のストーリーの劇的要素の印象がどうも薄くなりがち、というのはあったかな。それなりにドラマチックな事実が盛り込まれてはいるんだけど、そこに最大のクライマックスがあったかと言われると、個人的にはごめんなさい、という感じ。

まったくなんのセットもない素舞台、4人の男、スーツ、帽子、そして鞄。これだけで老若男女数多の人間を演じ、さらに数多の場面を見事に描きだしていきます。すれ違った瞬間に入れ替わる役、4人が1人の人物となって語る場面、入れ替わるときの身のこなし、1枚の写真が4枚になり、また1枚になる、その動きの美しさ、無駄のなさ。ステージングに「水と油」のおのでらんこと小野寺修二さんが参加されていると聞いていたので期待はしていたのですが、期待以上の面白さでした。浅野さんの空恐ろしいまでの器用さと、最後の場面で大女優もかくや、な気品を見せる段田さんには舌を巻きます。クールな佇まいの鈴木浩介さんと高橋さんの対比もよく効いてました。なにより、心底、全員がうまい!そんなあたりまえのことに感動すらする!

小品、という感じではありますが、だからこそ「演劇だから楽しめる楽しみ」を味わえる作品でした。