「ワーニャ伯父さん」

ケラさん×チェーホフ、第3弾。初めて拝見する戯曲でした。チェーホフの4大戯曲の中でもいちばん上演される機会が少ないような…?苦手な人にはとことん苦手で「眠くなる」と名高いチェーホフですが、個人的にそんなに苦手感がないんですよね。たぶん入り口がよかったんじゃないかという気もするし、基本的にチェーホフにポジティブなイメージが先行しているので、ケラさんのこの取り組みは毎回楽しみにしています。

劇場もコンパクトで、かつ手練れの役者しかいなくて、がっつり集中して見ることが出来ました。すっごく面白かったです。チェーホフの台詞について、以前鴻上さんが「サブテキストに満ちている」って話をされていたことがあって、わりとそれをいつも心にとめつつ舞台を拝見しているのですが、実際にそこで話されている台詞以上にべつのことがその背景で描かれてたりする面白さがあるような気がします。ケラさんの演出はそのあたりを決してあからさまではなく、でもちゃんと伝わるように板の上に乗せるのがとてもうまい。

ワーニャを演じたのは段田さんで、中盤にエレーナのことを独り想い独白するシーンがあるじゃないですか。あそこ、普通にやったら深々たる思いの丈を吐露!みたいな深刻ぶったシーンになりそうなところを、ワーニャの都合のいい妄想の色合いが濃い、独特のおかしみ(と、その裏の切なさ)のあるシーンに仕上がっていて、段田さんのさすがのうまさが光るという感じでした。ああいうシーンがひとつでもあると「あー見に来てよかった」って思いますね。

中盤の、土地を売る売らないの話から、拳銃が出てきて、あーこれどっちかが撃っちゃうやつ…と思ったのにその展開にならず、あっ思ったより重いラストじゃないのねよかった…と思っていたら、最後の最後、ソーニャの独白がまあ重い重い。あれ、ぜんぜん、いつか救われる、なんて話じゃなくて、どんなになっても救われない、って話なんじゃないのか…と所謂「神」を持たない私には思えてしまい、あのテーブルでいつもの仕事をしながら「生きていきましょう」と繰り返される台詞、ほの暗くなっていくあかり、そして暗転…と剛速球が腹にキマったぐらいのどすんとした観劇後の感覚がありました。

横田さんのミハイル、このモテ男!でもわかる!ミハイルが森林伐採に危機感を抱いている描写とかさりげなく鋭い台詞もあったなー。宮沢りえちゃんのエレーナ文句なしの美しさだし、ソーニャへの想いを聞き出そうとするあたりの軽妙な感じもとってもよかったです。

残る1作は「桜の園」ですね。いつになるのかなー。楽しみにしています!