12人の優しい日本人を読む会を見る会

GW突入と同時、4月29日にSNSで告知されたこのニュース。


文字通り、布団の中で惰眠を貪りまくっていた私は跳ね起きました。
えっちょっと待ってちょっと待って、TSBのメンバーはどれぐらい揃うの、ちょっと待ってちょっと待って…
…ほぼ全員揃っとるやないかーい!!!!!
相島さんの2号、善さんの7号はもちろん、西村さんの9号に野仲さんの11号に…
えええええええええ。
えええええええええええええええええええええ。

いやもうこればっかりはね、古参ウゼエと言われてもいい、この意味が!!!わかるか!?!?と道行く人に手あたり次第に詰め寄りたい(心の中で)ほど、すごいニュースですよ。「豪華な顔ぶれ」で済まされるアレじゃないのよ。社会通念上の「豪華」でいけばそりゃ2005年のパルコ版の方が豪華かもしれんよ、駄菓子菓子!「12人の優しい日本人」をやるという点において、正直これ以上の「豪華なキャスト」は存在しない!このカシオミニを賭けてもいい!!(直近の無料企画の影響が如実)

そして本日!前半14時から、後半18時からのライヴ配信。当初は一発勝負でこれっきりのご予定だったようですが、その時間帯に見られない…!という声も多かったのでしょう、5月いっぱいアーカイヴ*1を残してくださるという太っ腹ぶり。私はといえば今日は14時までに洗濯掃除もろもろ済ませ、1時間前にはPCの前にスタンバイ。こういう同時性が要求される娯楽の味、久しぶりだな~と思いながら。

冒頭に今回の企画の発起人である近藤芳正さんからの挨拶があり、こんな時だから、12人読みたいねって声があって立ち上げた、三谷さんにも快諾してもらって、機械に慣れないオジサンたちばかりなのでぐだぐだになるかもしれないけれど「とにかく最後までやる」(ショウ・マスト・ゴー・オンですな)のが今回のコンセプト、とのこと。そこに髭もじゃの三谷さんが登場して「できるかぎり劇団のメンバーを集めた」(ううう、うれしい)「ぐだぐだになるかもとか言ったけど、僕らの代表作なんだからちゃんとやれ」などと檄をとばしたりしてて面白かった。

さて、ようやく肝心の感想になるわけなんだけど…いやはや、すばらしかったね。それに尽きるんじゃないですか。あのメンバーがリモートでこの傑作戯曲を読む、という情報から想像したものをはるかに超えたものを提示された驚き、それによってもたらされた劇的興奮がすさまじかったです。まず、何より今回の企画の最大の成功要因は「演出を入れた」ってことにあると私は思う。どれだけこの布陣が芝居巧者揃いでも、演出がなければここまでの劇的興奮を得ることはできなかったんじゃないか。でもって、その演出家に若手の三谷フォロワーというか、ちゃんと新しい才能を引っ張ってくる近藤さんの慧眼たるや。初日はzoomに入るのですら1時間以上かかったというオリジナルメンバーたちが「リモート演劇を成立させる」にあたって、今回のニューフェイスさんたちが果たした力は大きかったんじゃないかと思います。

タイトル、暗闇での裁判長の言葉、退室してください…からそれぞれのメンバーがzoomの画面にオンラインで登場するあの瞬間!あそこからもう芝居だったよね。最初は確かに探り探りだったけれど、間合いを掴んでいくにつれ芝居の呼吸が合っていき、合っていくにつれそれぞれのテンションが高まり、というまさにいつも私たちが劇場で目撃してきた化学反応がちゃんと画面を通じても観ることができるんだな、というのも発見だった。

漫画雑誌、出前のコーヒー、投票用紙、ペン、地図…と小道具が出てくる場面は、それぞれが画面越しにやりとりしたり、実際に私物のカップを使っていたりしたのも、演出として非常にいいアイデアに満ちてて、またその呼吸も稽古あってゆえのことだろうな…と思うと、ほんと、役者って技術だよな!ってことを実感しました。不思議なことに、あの12分割された画面の向こうにさ、陪審員たちが集まる会議室が見えてくるんだよね。それを演技と演出でなさしめてるわけですよ。私たちに「想像」させてくれてる、目に見えないものを「見せて」くれてるわけですよ。それが、今回のこの「12人の優しい日本人を読む会」がただの「読む会」じゃなく、一本の芝居を観たような感覚をこちらに与えてくれてる要因なんじゃないかと思う。

しかしそれにしても、この戯曲そのもののすごさよね。これ三谷さん29歳の時に書いてるんですよ。おそろしすぎる。時事ネタがあって、それを変えないでいても、まったく強度を失わない構造。2時間強の芝居で、12人全員にフォーカスがあたる作劇。フォーカスがあたるだけじゃなく、単純な善人も悪人もいないというところまで書ききる筆力。すさまじいよ。もっといえば、日本に裁判員裁判制度がある今だからこそっていう面もあるわけで、ほんとうに、おそれいる。

せっかくなので、それぞれのキャストについて一言ずつ。
1号甲本さん。うまい。いやのっけからなんだって感じですが、常に落ち着きがあり、話が1号のところへ戻るとこっちも一瞬ホッとできる存在でありつつ、2幕で内情を吐露する際のあのトーン。「こわいな」ってあのときの、あれ、はー!(語彙どこいった)
2号相島さん。いやもうこれ相島さんが2号なのか2号が相島さんなのかってレベル。なんつーか、不動の2号。あの「話し合いましょう!」はこの人にしか出せないトーンでは。二幕で一転追い込まれてからの芝居の繊細さね…いやーほんといいもの見ました…。
3号小林さん。リモートで見ているから、こっちは普通に声を出せるのが通常の観劇とは違うんだけど、「栗をむいています」「じゃあ私そろそろ」「今のはけんかだよぉ~」など、ほんといいだけ笑い転げた。絶妙すぎでしょ。でもそんな彼が最後にしっかり議論に参加する展開がほんとにいい。
4号阿南さん。声を荒げたりするわけじゃない(女性に向かって怒鳴るな!っていうとこだけだよね、それがまたいい)けど、絶対に折れないマンのこの微妙な揺れをね、ほんと見事に体現してくださってる。あの決を採る場面で最後まで無罪の主張を曲げないのは私がこの芝居で1,2を争う好きなシーン!

5号吉田羊さん。台詞をほぼ完ぺきに入れてきてはったのでは…?この5号は実は唯一毎回キャストが違うんだけど、羊さんどんぴしゃだったなあ。5号は9号と対峙する場面が多いので、9号との相性も結構大事なんだけど、そのパワーバランスもよかった。
6号近藤さん。今回は動きがないので終盤そこまで目立たなかったけど、この6号はわりと最後「ともだちいない」感じになる役なんですよね。序盤もね!ほんっと腹立つし!またそう思わせる近藤さんのうまさね!いやはや絶妙なバランサーぶりを堪能させていただきました。
7号善さん。6号と7号は問題児(笑)。それをまたちゃんと面白く、しかも品を失わずにやれるのが善さんの善さんたる所以。言ってること感情論むき出しでむちゃくちゃにもほどがあるのに、ひとを引っ張る力がある。最後に2号に声をかけるのがこの7号っていうのがほんっとイイ。
8号妻鹿ありかさん。今回近藤さんがお声がけして参加してくださったとのことなんですけど、違和感なしなしすぎて驚いたし、どこか斉藤清子さんの雰囲気はあるし、いやすごいぴったりなひと連れてきたな!と思ってビックリしました。むーざい最高。

9号西村さん。いやーこの9号をね、見たくて見たくて。もう、見たくて見たくて夢に見るほどでしたよ。むちゃくちゃ冷静かつ論理的かとおもえば、単に5号に対するあてこすり目的だったみたいな稚気もあって、そのどの場面でも説得力がすごいし、この台詞を西村が言えば面白くなる、っていう三谷さんの信頼が見えるようでしたよ。
10号宮地さん。鉄板!と言いたくなるほど鉄板の演技。すごい。この頼りになる感、ハンパじゃない。相島さんと宮地さんがいればどれだけグダっても元に戻してくれるのでは…みたいな感じがあった。目から鼻に抜けないタイプだけれど、見るべきところは見ているってキャラをしっかり立たせてて、出るべきところですっと出る職人技。
11号野仲さん。11号は2幕が本領発揮、怒涛の反証をしていくカタルシスがある役で、見ていてもよしきたー!って思うし、そこからぐいぐい寄り切ってくる野仲さんの押しの強さを堪能できて大満足。序盤、台詞が飛んだとき素早くあとをひきとって繋げたのナイスプレイでしたね!
12号渡部朋彦さん。この方も妻鹿さんと同じくPrayers Studio所属で近藤さんがお声がけされたとのこと。いやこの12号って、伊藤俊人さんがずっと演じてた役なんですよね。で伊藤さんの役ってわりと回していかなきゃいけない役が多いんですよ。この12号も主張はしつつも有罪無罪入れ替わるキャラで、そこがいい加減じゃないように見えなきゃいけない。渡部さんマジで絶妙な存在感で、この難役をきっちりこなしてて舌を巻きました。

そして守衛の小原さん!ちゃんと守衛の衣装だったの愛しすぎませんか。あと声が、声が、よすぎる。三谷さんのピザ屋…あのときの12人の顔、マジ最高だった。あそこアーカイブで見てスクショしたい。楽しそうでなによりでしたよ。

zoomの退室が、舞台のうえで去っていく順番に画面から消えていくのも、よかったし、そこで最後まで涙を流す2号に、10号がかける笑顔もよかったし、はーすばらしかったな…と思っていたらまた1号から順に画面に現れて、一礼して、あっこれカーテンコールだ、と思った瞬間にどわっと涙があふれてきてしまった。自分がこんなにも観劇に飢えてたんだなってことを思ったし、またあそこに戻りたいなって思ったし…本当になんというか、体験、これは体験だった。画面を通じてではあったけど、私の求める観劇体験の頬に束の間触れさせてもらえた気がしました。

発起人になってくださった近藤さんにありがとうと言いたいし、上演許可を出さないことで有名な三谷さんが快諾しかつ出演してくださったのも劇団の…いやもう絆って言っちゃう、ここは言わせて、絆ありきだろうし、その呼びかけに東京サンシャインボーイズの面々が答えてくれたことがうれしいし、ね、これみんながいましっかり第一線で活躍しているからこそだもんね。三谷さんが伊藤さんの名前を出してくださったのも、うれしかった。

冒頭の近藤さんと三谷さんによる前説?のときに、三谷さんがこう言ってた。「なんでこんなめんどくさいことを?でもおもしろいものってたいがいめんどくさいからね」。ほんとね。演劇なんて、そういう意味じゃたいがいめんどくさいものの極みよね。やる方も見る方も手間がかかるったらない。でも、そのめんどくさいものをみんな愛してんだよなあ。そのめんどくささを乗り越えて、飛び切り面白いものを画面の向こうから届けてくださって、ありがとう。ほんとうに、この日のこと、忘れません。