「てなもんや三文オペラ」

最初はパルコで見る予定だったんですが、ギリギリで中止回にあたってしまい、慌てて大阪公演を取り直すという。取り直せただけよかった。ブレヒトの「三文オペラ」を鄭義信さんの翻案・演出で、主役のマック・ザ・ナイフには生田斗真

演劇界にその名も高いブレヒトの「三文オペラ」ですが、えへへ、ちゃんと見たのは今回が初めてです。いやこれも翻案だからちゃんととは言わんのか…?しかし、通して観てみることで、なるほど演劇人がこぞって三文オペラやりたくなるわけだよ…と妙に得心するところがありました。ブレヒト自身が当時の世相から強く影響を受けており、それらに抵抗したその意思の残滓が、どんなふうにアレンジを加えても戯曲の骨格を殺さず、かつ「今の時代」にも自然とリンクする部分があるように見えてくるという。名作の証ですね。

今回は舞台を戦後大阪(奇しくも公演のあった森ノ宮ピロティは舞台のドンズバ跡地)に置き、そこでアパッチ族と呼ばれた集団をマックたちギャングに置き換えていて、舞台の設定としてもむちゃくちゃ飲み込みやすくなってましたね。あとポーリーをポールとして男性に置き換えた作劇も効果的だった気がします。

いやしかし、冒頭の結婚式のシーンで白の三つ揃い着てババーーン!と登場した生田斗真の華のあることと言ったら!存在だけで間が持つやつ。全体的にマックはビシッとキメた恰好が多いので、相当に眼福であったなと。平田あっちゃんとのやり取りはじめ、色んなところでちゃんと面白も回収してて、いやー頼もしい座長さん!という感じであった。ピーチャムのいっけいさんも最高だったね。声の良さ!台詞の聞き取りやすさ!悪辣ぶり!満点でござった。

耳馴染みのあるマック・ザ・ナイフの曲を始め、音楽はわりと好きなテイストだったのもよかった。ただ歌はどれもこれも難しそうだったねー!その中で圧倒的うまさを見せつけてた福井晶一さんさすがでした。いや今回なかなか隙のない座組よね。

最後のかなり長い独白、そこからのマックの「最後の望み」を聞かせてからのあの展開、ああなるだろうと思って見ていてもキツイし、「お前が死にたかった今日は誰かが生きたいと願った明日」じゃないけど、作家がこの戯曲の骨格を借りて何を見せたかったのかがわかる、刺さるシーンになっていたと思います。