「バンズ・ヴィジット」

  • シアタードラマシティ 14列17番
  • 原作 エラン・コリリン 台本 イタマール・モーゼス 演出 森新太郎

キャスト陣が実に手堅いのと、エジプトの警察音楽隊イスラエルの演奏会に招待されるが、降りるバス停を間違えてしまい、迷子になった彼らの一夜の物語を描くというあらすじに興味を惹かれて観に行ってきました。

イスラエルとエジプトという、緊張関係のある2か国の話というのもありますが、それ以上に「まれびと」の物語としての色合いが強いですよね。外部からの来訪者に食事や宿を提供して歓待する、ある種の物語の形。

「なにもない」ベト・ハティクヴァの街の人々は、皆どこかで何かを待っている。そこに現れる異国の音楽隊。彼らと過ごす一夜は、ほんの少しだけこの街の人々の居方を変える。もちろん彼らが去った後の街は昨日と同じはずなんだけど、彼らという風が吹き抜けたことでほんのすこし位相が変わっている。

ミュージカルとしては地味な作品だなと思うけれど、私はそもそもこうした形の物語に異様に弱いというのもあり、好きな作品でした。ローレンス・カスダンの「再会の時」とかもそうだけど、特別に思える一夜があって、でも朝が来たら何も変わっていなくて、けれどほんの少し昨日とは違う何かがある、っていうやつ、ツボなんですよねえ。

警察音楽隊を演じるキャストが実際に劇中で演奏するのもよかった。あの赤子をあやすところ、なんかしみじみと静謐な絵画のような趣があって抜群だったな。ディナとトゥフィークの二人の会話で、子どもの頃に見たテレビでの記憶がふたりを繋ぐのもいいシーン。

風間杜夫さんの達者さと濱田めぐみさんの輝きを中心にした座組の皆が好演ですみずみまで見応えがありました。新納さんはいわずもがな、永田崇人さんのパピ、矢崎広さんのイツィク、そしてこがけんさんの電話男!こがけんさんめちゃくちゃ歌い上げてましたね!あの電話を巡るささやかな攻防も面白かったな。

尺もミュージカルとしては破格(?)の約1時間45分で、そういう意味では音楽劇、といった感触の方が強かったかも。「特にどうということはなかった」って最初と最後に繰り返されて、でも最後のその台詞は額面通りの言葉ではなく、サブテキストに満ちた響きがあるという点も私の好みだったなーと思います。