「平成中村座姫路城公演 第一部」

播州皿屋敷」。皿屋敷っつーと「番町」のほうが思い浮かびますが、皿屋敷系のお話っていろいろバージョンがあるんですね。番町皿屋敷のほうは以前吉右衛門さんの青山播磨で拝見したことがあり、そのときはイメージしている「皿屋敷」とかなり展開がちがったので驚いた記憶があります。どっちかというと今回の「播州皿屋敷」のほうがよく知られる怪談のイメージに近いかな。これもご当地上演で、なにしろ姫路城内に「お菊井戸」が現存してるっていうんだからすごい。

この演目の浅山鉄山はマジでむちゃくちゃ悪いんですが、それにしたってやってることがエグすぎてちょっと笑っちゃいました。誰だよ女を井戸の滑車に吊るして打擲するだけでは飽き足らず、刀をくわえさせてそれを引き、口から血を溢れ出させるなんて演出考えたやつ。絵面がどうやってもR18すぎて客席若干引いてたぞ。諧謔美とかものは言いよう過ぎる。

終盤、お菊が鉄山らに憑りつくあたりで場内の照明も落とされ、「これは東海道四谷怪談の演出パターンくるな」と思ったらやっぱりでした(笑)むちゃくちゃ叫び声があがってて、観客を巻き込んでラストになだれ込む手法として大成功だったんじゃないでしょうか。

横恋慕した女が振り向かないと見るや窃盗の濡れ衣着せてなぶり殺し、橋之助さんの鉄山、鬼の鉄面皮もかくやという冷徹ぶり、Sッ気炸裂の好演。虎之介さんのお菊も前半のつつましやかな佇まいがよく、後半との落差が効いてました。

「鰯賣戀曳網」。中村屋さんではお馴染みの演目になりつつありますな。「播州~」がかなり陰惨な演目だったので、対して明るく、罪がなく、最後に開けた感じで終われる、かつご兄弟の見せ場がある、ということで選ばれたのかな。勘九郎さんの愛嬌と七之助さんの美しさが堪能できる演目ですよね。個人的にはもっと見たことのない演目をかけてほしいよという気持ちもそりゃもちろんありますけれどもね!

最後に鰯売りの呼び声を観客にもやらせる(そのためのポストカードの配布あり)のが5類移行後の演出って感じなのかな。三の丸庭園の中村座の小屋のうしろで背面が開くのを待っているお客さんの人だかりが結構なことになっており、こういう「うしろからタダで観れちゃう」光景も中村座の名物だわねと思ったり。

それにしても橋之助さん、今回全4演目すべてにご出演ってなかなかすごいよね!ある意味中村橋之助奮闘公演の趣もあった今回の姫路城公演だったなと思います。