「梟」


17世紀、李氏朝鮮の時代を背景にした歴史スリラー。監督はアン・テジン。「仁祖実録」に残されている昭顕世子の不審死を題材にしているんですが、昭顕世子が亡くなったのが1645年だから、日本は江戸時代、将軍徳川家光の時代。そして作品の中でも出てくるように、大陸では明が滅亡し清が権勢をふるっております。だいたいこれぐらいの距離感の過去の出来事だから、どうなんだろう、たとえば日本でいえば織田信長明智光秀の裏切りにあって…とか、そのあたりの感覚なのかなあと。

主人公のギョンスは盲目の鍼医で、卓抜した才能があり、ひょんなきっかけから御医の目に留まり宮殿での内医院につとめるようになります。ギョンスには心臓に疾患のある弟とふたり暮らしで、ギョンスは弟の病を助けるためになんとか内医院で立身出世を果たしたいと考えています。そこに長らく清に人質として捕らわれていた昭顕世子が帰ってくるという知らせがやってきます。昭顕世子の咳の症状を癒したことをきっかけにギョンスは高潔な世子に心酔するようになるが、時の王である仁祖は清への恭順を示す世子を快く思っておらず…。

世子の最期の壮絶さが記録として残されていることから、これが謀殺ではないかというのは証明されてはいないけど有名な歴史上の「if」っぽいですよね。ギョンスはその権力闘争に巻き込まれていくわけだけど、盲人ではあるけれど、光のあるところでは殆どものを見ることができないかわりに、暗闇ではもののありようを見ることができるっていう設定がまずうまい。敵側の「こいつには見えていない」という安心感が揺らぐサスペンスと、文字通り魑魅魍魎跋扈する宮殿の権力争いのサスペンスが交錯し、犯人はわかっていても誰が味方なのか、最後まで緊張感が持続するストーリーで面白かった。

世子や世子嬪があまりにも好人物として描かれているので、どうにかならんかー!とか思いつつも、歴史上の事実は事実、そして汚ねえやつはどこまでも汚ねえ(あの味方面して最終的にギョンスを切り捨てた大臣の顔よ)!ってなりながら、最後の最後で一矢報いるのは映画ならではの観客サービスなんだろうけど、個人的にはスッキリできてよかった。しかし、鍼の効能がむちゃくちゃ凄くて、マジで出来んことないやんレベル…と思ったら、韓国では特に鍼医療が重視されていて、「一鍼二灸三薬」とまで言われていると初めて知りました。映画で知る韓国の歴史がまたひとつ!