「ラストマイル」


テレビドラマ「アンナチュラル」「MIU404」と世界観を同じくする(シェアード・ユニバース)新作映画ということで、脚本はもちろん野木亜紀子さん、監督は塚原あゆ子さんの協力タッグ。2つのドラマの主役級キャストだけでも豪華なうえに、満島ひかりさん岡田将生さんらが加わるんだからマジで綺羅星のごとき出演者陣。

公開直後に観に行った方の評判がすこぶる良かったので、どれどれと足を運んできました。ちなみにドラマの方は2作ともきっちりリアルタイムで追いかけてた組です。

舞台は超巨大ショッピングサイトの物流センターで、会社のロゴの色合いからしても明らかにAmazonを模しているんだけど、そのセンターから発送された荷物のひとつが爆発し死者が出てしまう。それだけでなく、次々と爆発事故が起き怪我人が出る事態に。センターの所長に着任したばかりの舟渡エレナと、部下の梨本孔はどうやって爆発物がこの倉庫に持ち込まれたのか?という謎を探るが、そこには過去の痛ましい事件が関係していた…。

まず舌を巻いたのが、この題材の選び方。なにしろショッピングサイトの物流・配送である。もはや現代を生きている人で、これにかかわりのない人など殆どいないと言ってもいい。物語が進むにつれて判明してくる、誰が、誰を、どうやって追い込んだのか?という答えは、冒頭からはっきりと示されていて、我々はその登場人物の一人なのである。この部外者にさせない、他人事にさせない題材のチョイス。唸るしかない。

事件が発生するまで、発生してからの展開がスピーディなこと、スピーディながらもそこで描かれる全部の台詞、ショットがあとの展開に活きてくること、しっかり主人公をめぐるミスリードも仕掛けていること、市井の人間にも、いや市井の人間にこそ五分の魂という作者のソウルを感じさせること。いやー野木さんすごいわ。絶望を味わった人がいて、その絶望に引っ張られる人がいて、それにシンパシーを抱く人がいて、でもそこから何かがあるよねという、現実にはそんな美しい解はないかもしれないけれど、エンタメとしてはそれを示そうという姿勢まで含めて感嘆させられました。

個人的にはあの配送ドライバー親子の悲哀というか、まさに「ラストワンマイル」を担う彼らの描写にもってかれたところがあったな。黙々と淡々と仕事をこなし、かつての相棒の立派さを語るが、その相棒は過労でもうこの世にはおらず、新たに運転席に座る息子には挫折の過去があって…という。あの中で「1時間昼休みをもらう」と主張する息子とさっさと食べて働けと促す父の構図。切り詰めて働けばそれが対価となって報われた時代を知る父と、それが単なる搾取に成り下がった現在を知る息子。まさに縮図だった。

死体が絡まないとなかなか本領発揮といかないアンナチュラル組は六郎くんが研修医として絡んできたり、MIUでもいい味出してた毛利刑事と刈谷刑事が本編でかなりがっつり活躍したりと「あの時のあの人が」な楽しみももちろんあったし、ミコトや中堂さん、伊吹や志摩が顔を出す嬉しさもあったしで、「シェアード・ユニバース」の醍醐味は味わわせてもらったかなという感じです。

むちゃくちゃヒットしているみたいなので、絶対「続編」とかいう話が出てくると思うんですけど、そこは塚原&野木コンビなら無駄弾を撃ったりしないだろうという安心感。とはいえ、アンナチュラルとMIUのクロスオーバーなんてなんぼあってもいいですけどね!