「ダブリンの鐘つきカビ人間」G2プロデュース

  • シアタードラマシティ 8列14番
  • 作 後藤ひろひと 演出 G2

2年半のスパンでパルコ+G2版再演。
霧の中、ある屋敷に迷い込んだ男女は、その屋敷の主から不思議な話を聞く。昔、ある街で奇妙な病気が流行する。異様に目が発達したり、羽根が生えたりその症状はさまざまだ。心と体が裏腹になる病気にかかった街の嫌われ者カビ人間は、自分の考えていることと逆の言葉しか出てこないと言う病気にかかった少女"おさえ"に恋をしてしまう。街の病気を鎮めるためには「ポーグマホーン」という奇跡をおこす剣が必要だというが・・・・

最近「泣き」を前面に押し出しがちな作品が多いので、これもそんな風になっていたらいやだなあとはじまる前は思っていたんですけど、ちゃんと童話の世界の怖さ、みたいな空気が残っていて安心しました。
病人が増えていたり井手さんダンスが加わっていたり、という変更は正直いまいちピンとこなかったんですけど、病人のビジュアルが凝っていたりしているのは前回よりも良かったし、なにより面白さと怖さ、哀しさが絶妙のバランスで堪能できる良い作品だなと改めて思いました。

もうひとつ、前回見たときはまったく意識しなかったんですけど、「病気にかかる前」というのは結構重要なのかもしれないと今更ながらに思ってみたり。だって、カビ人間って病気にかかる前までは「天使の見た目、悪魔の内側」だったわけでしょ?つまりこの病気を引き寄せたのは己自信でもあるわけで。
カビ人間には、自分が他人に散々なことをしてきた、という記憶はちゃんとあって(おさえの父親に「それは、僕?」と聞くシーンがある)、だとすると自分の心と体が逆転したあと、彼は天使の心で今まで自分がしてきたことをどう受け止めたのかなあと考えてしまったわけです。
村人に散々ひどいことをされても笑っていられるのはなぜだろう、とパンフのコメントで片桐さんもちょっと触れていたけど、笑っていれば仲間に入れてもらえるかも、ということよりも、そうやって昔人を傷つけてきた彼だから、そこで笑ってしまうのかな、そうして二度と人を傷つけないようにしているのかな、とか考えてしまったわけです。
それをふまえてなのか、片桐仁さんが演じたカビ人間には奇妙な哀しい明るさ、とでもいうべきものがあって、最初の登場シーンで鐘をつきながらいう台詞「ただいまお昼の十分前」がすごく良かったんですよ。で、あ、これは大丈夫だなってそこで安心しました(大丈夫と言いながら、私も多少不安を感じていたのかも)。もちろん、おさえちゃんとの絡みやクライマックス近くのやりとりなどは、ああここはあの大倉さんのテイストが欲しいところだな、と思ったりもしたのですけど、そういったナイーブな表現で若干惜しいなと思うところを除けば、私としては片桐さんのカビ人間は違う発見をさせてくれたという意味でも良かったです。

中越さんのおさえちゃんは、途中まではすごく雰囲気があっていいなーと思っていたのですけど、最後の叫びで椅子からずり落ちそうになったのがなんとも・・・。姜さんのさとるはちょっと長塚さんの味には到底及ばなすぎて残念。土屋アンナさんの真奈美、雰囲気はすごくご本人と合っていていいが、個人的にああいう台詞の喋り方が好きになれない。

初演組が多く残った座組ではありますが、中でも橋本さとしさんの出来にはほんともう唸らされました。私は初演の戦士も大好きで、そのために大阪で見たあとわざわざ東京まで当日券で追いかけてしまったほどなんですけど、その最高だった2年前の記憶を吹っ飛ばすほどに今回の戦士は最高すぎる。私の見た回で客席を一気に暖め、奇妙な世界に観客を最初に連れていってくれたのはさとしさんだったと思う。周囲が誰もついてこなくてもお構いなしに飛ばすテンションが前回だとしたら、今回はスピードを落とさずに全員を乗せて突っ走る高級車の如く。いやもう素晴らしかった。
山内圭哉池田成志の神父&市長コンビも絶好調。この二人も、前回の面白さを遙かに凌駕する出来。特に山内さんは今回成志さんと対等に渡り合っている、という感じ。前回よりも、という意味では中山祐一郎さんもすごく良かった。再演で同一キャスト、だからこその醍醐味も味わえたところが良かったです。