「ムサシ」

いわゆる一般的な「宮本武蔵」のイメージと藤原竜也くんってのがどうにも結びつかないところあるなーと思いつつ、小栗旬くんはまあ小次郎っぽいちゃぽいけど、でも藤原vs小栗で台詞劇じゃなく立ち回りってのも、とか最初は思っていましたけど、なるほど、こういう話なら全然ありですね。

確か最初は音楽劇と謳われていた気がするんですが、まあ確かに音楽ありましたけど、通常の井上ひさし作品の「音楽劇濃度」からすると薄めですよねこれ。そこは自分としてはずいぶん助かったというか、おかげでとても見やすかったです。

以下最後の展開についてのバレ含みます。
見ている内に自分の中でもふたつの感情があって、それはこの二人に「斬り合ってほしくない」という心情と、「やはり立ち会って欲しい」という相反するものだったんですが、だから最後の展開にはああ、よかったとも思いつつ、えええ、とも思いつつ。えええ、っていうとアレですけど、立ち合いをしない理由が「命を粗末にしない」というのはなんというか、個人的には納得いかない。あの二人にはやはり、命のやりとりをしたもの同士にしかわからない連帯、というようなものがあって*1、その一瞬のきらめきをもう一度感じたい、という欲求から彼らを引き離すのは「命の大切さ」じゃないと思うんですよ。そこはなんというか、ああ〜、こっちに持っていっちゃったか〜、みたいな気分にはなりました。

豪華な座組とはいえ実は少数精鋭の舞台であって、おかげでどのシーンも飽くことなく楽しめました。私は吉田鋼太郎さんを初めて拝見したのが「子どものためのシェイクスピア」で、そのときの鋼太郎さんの重厚かつ軽妙洒脱、みたいな達者ぶりにほれぼれしたんですけど、今回まさにその「重厚」でありなおかつ「洒脱」である人物を見事に立ち上げていらして最高でした。もう大好きですよ。おっさんスキーとしてはヨダレものですよ。

しかしあの五人六脚のシーンは笑ったな!かわいい、かわいすぎるよみんな。すり足タンゴのところもよかった。たっちゃん間違えて小栗くんにぶつかってた(笑)白石さんと杏ちゃんの女性陣ふたりもいいコンビだったなー。白石さんはなにやらせても達者すぎてもうもうもう。

小次郎も武蔵も、ふたりが演じるとやはり青年ならではの潔白さ、みたいなものが随所にあって、それが「このふたりに斬り合いをさせたくないな」と思わせる大きな要因だったのかなあと思います。最後の最後まで馴れ合わない、緊迫した空気をきちんと舞台の上で持続させることが出来る、というのは簡単なようで難しい。今回の舞台のように「和む」シーンがあると尚更ですが、そこをきっちり役を全うしていてさすが蜷川さんが次代を担う役者と期待するふたりだけのことはあるよなと思いました。「またとない好敵手と再び相見える」という欲求を叶えて欲しいという感情も自分の中にはあったと書きましたが、しかしそれでも、最後に小次郎のことを「友人です」と話した武蔵の言葉にはぐっときたし、きっともう会うこともないであろうふたりが振り向きもせずに去っていくラストには感じ入るものがありました。

*1:下のエントリで書いた、穂村さんの「来たれ好敵手」にも同じようなことが書かれている