「上海バンスキング」オンシアター自由劇場

演劇っていうのは基本的に再生産のできないもの、一期一会、同じ舞台は二度とない。だからこそ、数々の「伝説の舞台」が存在する。その「伝説」のまぎれもない一角。私にとっては、自分が「間に合わなかった」もののひとつの象徴でもありました、この「上海バンスキング」。封印から16年を経た今、当時のメンバーが再結集した、まさに「奇跡の再演」。あまりバレはないと思いますが気になる方は回避で。

30年前に書かれた脚本ということに、まず驚く。いまでもまったく古びていないどころか、MOPがついこの間までやってたよね、みたいな感じすらする*1。登場人物達の上を流れていく歳月と、歴史の重なり。

決してハッピーハッピーな物語ではないのだけれど、感激後の感覚は驚くほど爽やかでした。それは音楽というもののもつ力が大きいのだけれど、もっというならその「音楽」を楽しんでいる役者さんたちのパワーが、このシリアスで出口の見えない物語に、暖かい空気を吹き込んでいるような気がします。

16年前と同じ役、いやもっと言えば30年前とをやる、ブラボー、これぞ演劇ならではのすばらしさと思いませんか。だってそんなの、テレビじゃとてもとても成立しないもの。夏祭で義平次をやる人が夢と希望に満ちあふれた若きバンドマンをやるのだよ、やって、そしてそれが成立するのだよ。吉田日出子さんのあの軽やかさには正直舌を巻きました。すごいよ、あの役ほんとうに日出子さんにしかできない。一幕の幕切れで、ピンスポットのなかで歌う「貴方とならば」、白井中尉の背中に向かって歌う「暗い日曜日」のなんと素晴らしかったことか。あのシーンはうつくしい。ああいうシーンを見たくて、自分は劇場に通い続けているんだなと思う。

白井中尉を演じた大森博史さんの、清潔感あふれる佇まいにはきゅんきゅんしたなー。あんないい男どこにいますか。いませんよ。そして弘田を演じた小日向さん・・・・ごめん。大好き。転向して軍属になってからのまさに「カミソリ小日向」の面目躍如っぷりったらない。かっこよすぎるあまりのけぞって身悶えてさんべん回って吠えたいところだった。四郎にブツをすすめるときの、あのテーブルでの手さばきすらもSっぷりが炸裂していてほんとどうもありがとうございます、目の正月でございますと三拝九拝もかくやといった感じだったですよ、ええもう。

しかもさ、楽団のシーンのときってアルトサックスの小日向さんとテナーサックスの大森さんが並んでらっしゃるのよ。きゃー!もうすいません正直ガン見しましたすいません。それにしてもみんなホントに楽しそうに演奏するよなあ、見ているこちらまで楽しくなる。

冒頭からほぼ一貫して、時には片隅から、時には舞台の脇から、彼らを懐かしそうにみるまなざしがあって、あれは今の私たちの目線なのだろうか、それとも、あのときの「彼ら」の目線なのだろうかと思ったりした。10年以上の時を経て同じ物語を演じることができる、それはもちろん演劇のすばらしさで、でもそれだけではなく、同じ役者がやるからこそのノスタルジィもそこには存在していたように思う。楽しく、そして懐かしい日々の思い出というような。

終盤に四郎が見る悪夢が、なんともシュールで、その部分だけ完全な異世界に見えたなあ。もっと言うとそこだけ時代が違う、という感じすらした。赤い布を使った演出が印象的です。

最後のシーンでのピストルをめぐるシークエンス、とても好き。そしてかつてあったかもしれない、夢のジャムセッションへなだれ込むところは、心震わせずにいられないものがありました。

で、この舞台はカーテンコールからそのままロビーへの生演奏に繋がるわけなんですけど、前日にお食事をご一緒させて頂いたお友達から「タイミングを見計らうのがなかなか難しい」と聞いていて、正直ドキドキだったんですけれども、席がちょうど出口の近く&隣の人が完全なるベテランらしく、出て行くタイミングを図っていた、という幸運もあって、楽器隊の皆様が演奏される真っ正面で、私の前までは座るように言われていたので実質私がスタンディング(っていう表現どうなの)最前、まー視界がクリアなこと!そしてその正面が、正面が、小日向&大森コンビだったんですがこれどうしたらいいですか。とりあえず瞬きするのはやめてみました(実話)。吉田日出子さんのあいさつと、フラッシュ撮影しないでねっていう話をしている間、小日向さんが隣の大森さんにちょっと背伸びして耳打ちして、大森さんがそれをちょっと猫背になりながら聞いてるとかさ、ええーーーーもーーーーーこんなゴージャスなツーショットを目の前で見て私寿命縮むんじゃないっていうかむしろ縮んでもカモーン!盆と正月がいっぺんどころじゃないです実際。

ロビーでは2曲披露してくださって、あのコクーンのロビーが人でみっしり!まさにみっしり!と鈴なりになって、みんながニッコニコの笑顔で手を叩いている姿、はーもう胸がいっぱいになりました。
今回の再演を実現してくださったことに、心から感謝!!!

*1:っていうか、MOPと芝居の構図が似てるんですね、方や吉田日出子さん、方やキムラ緑子さんというヒロインが真ん中にいるというのが一番大きい気もしますが